何事が起ったのかと、一瞬思考が追い付かなったが、直ぐ真横をかなりのスピードで自転車が通過していった。
「おいっ、スマホ観ながら運転すんな!」
玄希は、横を通り過ぎて行った自転車に怒鳴りつけた。
「ったく、あっぶねーな。車道側を走れっての。……おい、平気か?」
「へ?……あっ、うん、大丈夫。助けてくれて、ありがと」
「……おぅ」
自転車から守ってくれたのは分かっているけれど。
咄嗟の出来事だったからなのか。
3年ぶりに抱きしめられたからなのか。
知らない間に急に大人になったみたいな玄希に、ドキッとしてしまった。
抱き締められた体がゆっくりと解放されたと思ったら、無言でそっと手が握られた。
「あ、メールだ」
メールの着信に気付いた玄希はそれを確認して、スマホの画面を私に見せる。
「『夕飯、何がいい?』だって」
メールの送信者は玄希の母親だ。
今夜も長谷川一家と夕食を食べることになっているらしい。
玄希は器用に片手でメールの返信をしながら、時折視線を私へと寄こして来る。
手を握るのも、抱きしめられるのも。
恋人になったら当たり前なのかもしれないけれど。
強制的に始まった関係だからなのか。
心と思考が追い付かない。
だって、こんなにも優しい玄希だなんて、私知らないもん。



