幼なじみは、私だけに甘い番犬

(玄希視点)

 体育館での始業式が終わり、生徒たちは順に教室へと戻るために移動している。
 俺の視線の先に、椰子と雪村(琴乃)と龍斗が会話しながら歩いている。

 俺のいない3年の間に、あんなにも仲良くなっていたのか。

 運命の悪戯なのか。
 何故、俺だけが別のクラスなんだよ。

「長谷川くん、教室の場所、分からないでしょ。一緒に行こう」
「あ?」

 自慢じゃないけど、俺は顔もスタイルもいい方だ。
 だから、こうして自然と女が寄って来る。
 だけど、肝心のあいつが近づいて来ないんじゃ、意味がねぇ。

 倉木 椰子、俺の幼なじみ。
 親同士が親友だから、生まれる前から俺らの運命は共同体のようなもの。
『許嫁』という合言葉を口にする両親らに、心の底から感謝したいくらいなのに。
 俺の好きな女は、いつだって俺のことを怪獣くらいにしか思ってない。

 あいつ(椰子)の髪はいわゆる天然パーマというやつだけど。
 変にもさもさしてる感じじゃなくて、くるりんと愛らしく巻かれている、『姫カール』というやつだ。
 
 色白で華奢な体つき。
 黒目がちな瞳は大きくて、360度どの角度から見ても可愛いお姫様タイプ。
 同年代のガキども(男の子)が、あいつに好かれたくてちょっかい出してるのは分かり切ってること。
 本人だけが分かってないだけ。

 それをあいつは『揶揄われてる』とずっと思い込んでる。
 まぁ、俺もそれを利用している一人ではあるから、人のこと言えた義理じゃないけれど。