遣らずの雨 下

『紗英おかえり。葉山さんも
 いらっしゃい。疲れただろう?』


12月に入り、寒さが厳しい季節になると、医師を務める父も忙しい為、
暖かくなった3月に予定を合わせて名古屋に旅行を兼ねてやって来た。


ホテルに荷物を一旦置いてから、
お父さんに会いに凪とマンションに
行くと、温かく迎えてくれ一安心だ


お父さんには凪のことは予め話して
いたから‥‥‥


『お忙しい中お時間を頂いて
 すみません。』


『リラックスするといい。
 紗英、お茶を淹れてくれるかい?』


「うん。凪‥ソファに座ってて?」


いつものラフな凪と違って、滅多に
見れないスーツ、髪の毛も整え
られた姿に、いつも一緒に過ごしている
のに見惚れてしまうほどだ


『今日ここに紗英の母親を呼ばなくて
 すまなかった。少し時間は必要だが、
 彼女も前を向いているよ。』


『そうでしたか‥‥。本来なら
 お2人に挨拶をしっかりした上で
 とは思いましたが、時間はあります。
 その時が来たらまた皐月と一緒に
 会いに来ます。』


凪‥‥‥


言葉数少ない凪が一生懸命話して
くれているだけでも胸が詰まるけど、
お母さんが前を向いていると聞けた
だけでも涙が出そうだ。


お母さん‥そしてお父さんがいなければ
私はここにこうして生きていられない。


他の誰かじゃなく、両親だったから、
今の私があり、凪と出会えた。


いつか、顔を見て、改めて感謝の
気持ちを伝えたい‥‥。


『葉山さん』


『はい‥。』


『紗英はね、君と出会って、本当に
 明るく楽しく過ごせているのが
 よく分かる。こっちにいた時が
 不幸だったとかじゃないんだ。
 ただ、どう生きればいいかを迷って
 いたあの頃が嘘のようだよ‥‥。
 それは君のお陰だね。
 本当にありがとう‥‥。』


お父さん‥‥


私がどんな顔で過ごしていたかなんて
分からないけれど、安心したように
笑う父の顔に目頭が熱くなる


『新名さん、改めてご挨拶に伺ったのは
 、皐月‥‥いえ‥紗英とこれからの
 人生をずっと歩みたいと話し合い、
 ご報告と、お許しを願いたく
 参りました。』


凪に初めて紗英と呼んでもらえた事にも
胸が熱くなり、堪えきれず涙が溢れた


名前なんて関係ない‥‥。
どんな名前でも凪は私を選ぶとそう
伝えてくれた‥‥。
それでも、やっぱり紗英と呼んでもらえた事は嬉しいに決まっている