遣らずの雨 下

私のような小さな存在が、あなたにとって心強いなんて思えてるなら、これ以上
幸せなことはない‥‥


「凪‥‥‥おかえり。」



『ん‥‥ただいま。』


向きを変えて抱き合う私の体に
もたれかかる重みを受け止めれるような
人になりたい。


その日の夜、凪と素肌を合わせて
抱き合う喜びに、何度も顔を見ては
愛しい人に口付けを繰り返した。


自分がこんな大胆なことを出来る
人になれるなんて思わなかったけど、
それは自然体の凪がいるからだ


この人の前では、力を入れなくても
過ごしていられる。


こんな私を、素の私でいさせてくれる。


『‥‥‥皐月‥』


「ん‥‥‥ッ‥‥‥アッ‥」


右手が使えない凪が、左手だけで私の
腰を支えるとその深さに首にしがみつき
押し寄せる律動に吐息が溢れる


「‥ッ‥アアッ!‥待っ‥凪‥ッ!!」


『‥‥ッ』


激しい‥‥‥。
息も苦しい‥‥‥。
それでも凪が生きていることを1番
近くで今日は感じていたかったのだ



凪からも漏れる甘い息遣いを感じ、
耳元で囁かれた名前に涙が出つつも
その日は明け方まで何度も凪の熱を
感じ、そのまま抱き合って眠った。


凪の回復を待ちながらも、グリーン
ショップは開き、凪はリハビリがてら
軽くカンナで木を削ったり、ショップ
の外のシンボルツリーの手入れなどを
する姿をお店から眺める


思ったよりも手が動いてる気がする‥‥


先生が前みたいに動くかわからない
なんて言ってたから、不安で堪らなかったけれど、凪は感覚が戻るまでは
のんびりやるつもりだと言っていた。


リハビリに通いながらも季節は
寒さを少しずつ感じる秋を迎え、
凪も1日の半分は工房で過ごしながら
作品を作るようになった。


「お疲れ様。お弁当ここに置いて
 おくね。」


『皐月、ちょっと来て。』


ん?なんだろう‥‥‥


手招きされて工房に入ると、
凪が無垢のスツールを隣に置いたので
そこに腰掛けた。


「どうしたの?手が痛い?」


掌に残された傷痕が心配になり
手を取るとそこを何度もさすった。


リハビリがてらとはいえ、凪は
工房に入ると時間を忘れて作業する癖があるから心配になる


あれから時間が経ったとはいえ、
あの時の光景が甦り、私はここに
足を踏み入れるのも躊躇ってほどだ。


凪は祖父母の工房だから、それ以上の
思い出があるから平気だって言ってた