遣らずの雨 下

「大丈夫だよ‥‥犯人は捕まったから
 怖くない‥‥凪は自分のことだけ
 考えて?」


大切な人だからこそ心配かけたくない。
愛しい人だから安心させたい。


いつまでも弱いままじゃダメだ‥‥。
凪のそばにいたら、私はこのまま
弱いままで生きてしまうのかな‥‥。


『‥‥お前‥‥変なこと考えて
 ないだろうな?』


ドクン


少しだけ力を込められた凪の手が
私の手首を握り、心臓がギュッと
締め付けられる


多分‥以前の私なら、酒向さんの時と
同じように黙って凪の元を去ったと
思う。


大好きな人の幸せを願ってとった
自分の行動で大切な人を傷つけていた
事を知り、あの時駅での酒向さんの顔が
正直今でも胸を締め付ける


だからこそ、もう逃げたくない‥‥。


「凪、私ね‥‥凪のことがとても
 大切で愛しいって気持ちがおかしい
 かもしれないけどどんどん増して
 ばかりいるんだ‥‥。
 どうしたら私も凪を幸せにして
 あげられるんだろうって‥‥。」


考えても考えても、力不足で経験不足な
自分が出来ることはとても限られていて
存在の小ささを改めて実感した


こんな風に私の手を覆う大きな手もない

軽々と抱き上げるような力もない

何が出来るかわからないってずっと
モヤモヤしてた。


『‥‥そばにいて分かんねぇ?』


切れ長の瞳が細められ、無意識に
伸ばして手で愛しい人の頬に触れる



「分かってる‥‥凪の気持ちは
 ちゃんと届いてる。」


『フッ‥‥‥ならいい。お前はずっと
 俺のそばにいろ。』


その言葉に目尻から涙が溢れると、
凪がそこに唇を落とし、そのまま
私達は見つめ合いながら何度もキスを
繰り返した。


生きているこという幸せ。


自分の為に生きる人生で良かったのに、
誰かの為に生きたいと思う気持ちを知り
温もりや込み上がる切なさを感じた。



『‥‥‥嫁に来いよ。』


「‥‥‥ッ‥‥‥でも‥‥私あと何年
 生きられるか分からないよ?」


『そんなの俺も分かんねぇだろ?
 分かんねぇ先のことより、いま俺は
 お前と家族になりたい。』


凪‥‥‥‥


「‥‥私で‥いいの?‥ほんとに?」


目の前の愛しい人の顔を見つめると、
いつものように目が細められ、凪が
優しく笑っている


『お前がいい‥皐月しかいらねぇ。』 


「凪ッ‥‥‥」