遣らずの雨 下

起きてると無愛想なのに、
眠っている顔を改めて見ると
本当に綺麗な顔立ちをしてる‥‥


疲れてるだろうから、まだ暫く
起きることは無さそうだから、早く
向こうの家に戻ろう‥‥。


自分の意思とは関係ないけど、誰かの
スペースに踏み込んでしまった事に
溜め息が溢れてしまう。


行く場所がない私を雇ってもらえた
だけでも感謝してるから、この距離感
のまま、一生懸命働かないと‥‥


素敵な空間を見渡してから鞄を手に取り
外に出ると、生憎の曇り空だった。


なんとなく一雨来そうだな‥‥


工房の2階に行くと、サッとシャワーを
浴びてから掃除を済ませ、スーパーに
向かい急いで買い物を済ませると、
帰る途中にやっぱり雨が降り始めて
しまった。



「はぁ‥大降りになる前で良かった‥」


軒下に自転車を置くと、カゴから
エコバッグを取り出し、額から滴る
水滴を手の甲で拭っていく。


『おい‥買い物行くなら起こせよ。
 ほら‥‥タオル。』


「えっ!?び、ビックリした‥‥
 あ‥ありがとう。
 グッスリ寝てたし悪いかなって。」


いつの間にこっちに来ていたのかにも
驚いたけど、裸だった凪の残像が
思い出され赤面してしまいそうになる


「あと‥‥ご、ごめんね。昨日の記憶が
 なくて、凪のベッド占領してたから。
 その‥‥とにかくごめん。」


なんとなく顔を見るのが恥ずかしくて
タオルを頭からかけると、そのまま
ショップの扉に手をかけた


『そこはありがとうだろ‥‥。』


「あ‥そっか‥‥うん‥‥
 凪‥‥ありがとう‥‥‥。」
 


頭に乗ったままのタオルでガシガシと
髪の毛を拭かれると、手から買い物した
エコバッグが抜き取られそれらを2階まで運んでくれた


『昨日は言わなかったけど、
 お前の知り合いが来週ここに来る
 って‥‥‥どうするかは自分で
 決めろよ。』


ドクン


酒向さん?
それとも紫乃さんが?


あ‥‥マズイ‥‥‥


心臓がドクドクと煩く、発作前の嫌な
予感がしてしまい、落ち着いてゆっくり
呼吸をしようとするものの、その場に
座り込んで胸を押さえる



『皐月?‥‥‥おい!どうした!?』


冷蔵庫にもたれる私の目の前に来た
凪が、顔にかかっていた髪の毛を避け
私の両頬を両手で上に向ける


凪がこんなに大きな声を出したところ
初めて見た‥‥‥


苦しいのに、無理やり笑顔を作ると、
笑って欲しいのに凪の顔が歪められた


『どうすればいい‥‥教えろ。』