遣らずの雨 下

サイドテーブルに置きっぱなしの
凪の財布の中に保険証を見つけ、
急いで鞄に入れると、これから一緒に
食べるはずだった食事をそのままに
倉庫に鍵をかけ飛び出す。


その時遠くから聞こえたサイレン音に、
坂の上まで走り手を振った


パトカーと救急車が2台到着し、
羽鳥さんが呼んでくれたのだと
今になって気付く。


きっと私だったら気が動転して
何も出来なかっただろう‥‥


5分も経ってないのにもう来てくれるなんて、あの時羽鳥さんが叩いてくれなかったら間に合わなかったかもしれない‥


グッと唇を噛み締めると、倉庫の
シャッターを開けて救急隊員達が
入りやすいようにした。


「こっちです!!お願いします!」


凪‥‥‥凪‥‥‥


少し離れた場所から凪を見守ることしか
出来ない私は、今になってまた体が
震え始めたことに気付く


青ざめた顔色

開かない瞳

動かない体‥‥‥


さっきまで笑顔でそばにいてくれた凪が
今は何処にもいない‥‥‥


警察官の方に事情聴取されながらも、
震えて上手く答えれてるのかも
自信がない‥‥


『皐月ちゃん、凪と一緒に行って。
 俺は話をしてから車で追いかけるから
 搬送先だけ後で教えて、いいね?』


泣くのを堪えて何度も頷くと、
羽鳥さんが笑ってくれ、凪と一緒に
救急車に乗り込んだ。


サイレン音がずっと頭に鳴り響く中、
凪の左手を震える手で握り堪えていた
涙を流す


凪‥‥ごめんなさい‥‥


何があったか分からないけれど、
私が呑気に食事なんて作ってなければ、
もっと早く気づけたかもしれないのに、
本当にごめんなさい‥‥


お願い‥‥凪‥‥目を開けて‥‥‥



『意識がないので検査などして
 このまま手術室に向かいます。
 付き添いの方は、受付して
 待合でお待ち下さい。』


「はいッ‥よろしくお願いします。」


握り締めた凪の手が離れると、
気力だけで立っていた私はそのまま
壁にもたれそのまま座り込んでしまった


私が人生で1番長く過ごした場所に、
こんな形で来たくなかった‥‥


家族や酒向さんを傷つけて自分だけ
幸せに過ごしていたから罰が当たった
のかな‥‥‥


それともやっぱり皐月の命を奪って
しまったから?


もしそうなら‥‥私の命を凪に与えて。

優しくて真っ直ぐで、ありふれた
才能を沢山持ってる人なんです‥‥
私なんかより沢山生きないといけない
人なんです‥‥


泣いたって仕方ないって分かってる‥。
でも‥‥いつもそばにいて守ってくれた凪に、こんな時でさえ、何も出来ない
自分の小ささを思い知ったの‥‥。