遣らずの雨 下

ちょうど工房に着いた羽鳥さんと会い、
傘を閉じてショップの中に案内した。


『何回電話しても繋がらなくてさ。
 仕事に集中してるのかな?』


「今日が納期ですもんね。睡眠削って
 頑張ってましたから。私タオル取って
 来ますね。工房開いてますから。」


ワイシャツがびしょ濡れの羽鳥さんが
風邪を引くといけないと思い、2階に
向かいながらそう伝える。


凪が電話に出ないなんて珍しい‥‥


もしかしたら疲れて寝てるとか?
本当にこの1月忙しかったから、
終わってホッとしてるのかもしれない。


結局いつもそばにいてこうして、
ご飯を作ったり、事務仕事のサポート
したりショップを任せてもらうこと
くらいしか私には出来ないけれど、
何をしたら凪は喜ぶのか聞いてみよう
かな‥‥


『皐月ちゃん!!!』


えっ?


工房から真っ青な顔をした羽鳥さんが
階段下から上を見上げ驚く


『タオルちょうだい!!血を流して
 凪が倒れてる!!!急いで!!』


血‥‥?‥凪が‥‥‥?
えっ?‥ちょっと待って‥‥何?
頭が追いつかない‥‥


『皐月ちゃん!!』


ビクッ!!


「ッ‥‥は、はい!!」


状況がよく分からない‥‥
それでも足を動かさないといけないのは羽鳥さんの声色で分かる


タオルを抱えて
工房に慌てて向かうと、ドアの先に
見えた光景に目を疑った



「ッ‥‥凪ッ!!!」


いつからそうなっていたのか分からない
凪の状態に青ざめつつも駆け寄ると、
羽鳥さんがスピーカーで話しながら
救急隊員と話をしている


右手を切られているのか、おびただしい
出血量が地面に広がり羽鳥さんが
押さえている上から代わりに押さえ、
羽鳥さんが工房にあった布で肩の辺りをキツく結んだ。


凪‥‥‥何があったの?
なんでこんなことに‥‥‥‥


『皐月ちゃん泣いてる場合じゃない。
 いいかい?凪の保険証を探して
 病院に着いていける準備を落ち着いて
 するんだ。
 ここには俺がいるからいいね?』


「ッ‥‥私‥‥」


パチン!!


「ッ!」


『皐月ちゃん‥‥出来るね?』


「‥‥ッ‥はい!」


本当は大声あげて泣いて叫びたいくらい
冷静じゃいられない。
でもそうだ‥‥今は泣いてる場合
じゃない‥‥。凪のために
自分が出来ることはここで泣くこと
じゃない‥‥

羽鳥さんに頬を叩かれた後、瞳の涙を
拭うと、立ち上がり倉庫へ向かった。