遣らずの雨 下

『何もなかったならいい‥‥。
 それより‥‥溜め息ついてたって
 楽しくなかったのか?』


えっ?


凪の言葉に抱きついていた体を離す。


「ち、違うッ‥‥楽しいよ。
 自分で勝手にモヤモヤしてただけ。
 キャンプは関係ないの。
 ただ‥‥多分ヤキモチ妬いたんだと
 思う。」


『は?ヤキモチ?何のことだよ。』


高台が暑いから、手を繋ぎ藤棚が美しい
木陰にやってくると、ベンチに座り
凪が自販機でポカリを買ってきてくれた


こんな事を言ったら幼稚だと思われる
だろうか‥‥‥。


でも、きっと凪は笑わずに静かに
聞いてくれるはず。


「‥洗い場に綺麗な人といたでしょ?」


膝の上で両手を握り締めて凪を見上げると、ポカリを喉に流し込む動作に
色気を感じてしまい、思わず見惚れる


こんなにカッコよかったら、モテるのも
分かってる‥‥


背も高くて、程よく筋肉もついてて、
顔立ちだって整ってる。


そんな人の隣にいると、釣り合って
ない気がして自己嫌悪に陥るのだ


『綺麗な人?そんなの居たか?』


えっ!?


「い、居たよ?話してたでしょ?」


もう一度ポカリをゴクっと飲む凪を
見つめると、何かを考える様子を
浮かべた後、私を見下ろした。


『あ‥勝手に横で話してたヤツか‥‥。
 俺は何も話してねぇよ。煩いから
 すぐ遊達のとこに戻ったし。
 そしたら俺の様子を見に行った
 皐月が戻ってないって言うから
 探してた。』


「‥‥‥‥‥」


勝手に話してたヤツ‥‥。


凪は稀にこういったことがあるけど、
あんなに女性が話してたのに記憶にも
残らない程度なの?


「でも綺麗な人達だった‥‥。
 私と違って凪の側に来る人はみんな
 綺麗な人達だなって‥‥。」


『‥‥‥俺はお前しか見えてない
 けどな。』


「ッ‥‥でも‥‥私は綺麗とか
 色気とかないから、凪はその‥‥
 タイプとかじゃないんじゃないかな
 って‥‥。」


眩しすぎる凪を見れず俯くと、
私の目の前にしゃがみ、下から私を
覗き込む凪と目が合うと、そのまま
近づいてきた凪に唇を塞がれた


「んっ‥‥凪‥‥ッ」


こんな外で、誰が見てるか分からない
のに、離れたと思ったらまた深くキスを
落とされる


『‥‥‥こんなことしてぇと思うのは
 お前だけだ‥‥覚えとけ。』


切れ長の瞳が真っ直ぐに私を捉えると、
真っ赤になっているだろう私を見て
フッと小さく笑った。