遣らずの雨 下

サンダルのまま見よう見まねでそっと
足先を緩やかな川に付けると、冷たくて
気持ちのいい感覚にまた口が自然と
開いてしまう


『フッ‥‥そんなに感動する?』


笑う凪に何度も首を縦に振る。


これが川なんだ‥‥‥。
私にとって生きてきた世界は本の中で
描かれていたものばかりで、実際のところは知らないことが多過ぎる。


想像の世界で生きてきたようなもの
だから、全てがこうして色付けされて
華やかになってゆく‥‥


『皐月ちゃん、じゃあ来年は海に
 行こうか。』


『おっ!!海もいいねぇ!!
 可愛い子沢山いるから俺はそっちの
 方が好き。』


柿添さん‥‥
そのストレートさを隠さないところが
最早親しみを感じてしまう‥‥


羽鳥さんも柿添さんも背が高くて2人ともカッコいい人達だから、寧ろ特定の
彼女がいない方が不思議で仕方ない


初めての釣りは男性陣が活躍してくれ、
私は凪と一緒に一度だけリールを巻くのを手伝ってヤマメを釣ることが出来た。


「ワッ!!滑る!!」


『フッ‥捕まりたくねぇってさ。』


両手でしっかりと魚を掴んだ後も、
元気よく動く力強さに手こずる。


水に濡れて、はしゃいで、
経験したことのない時間がたくさん
出来ていく。


こういうのをきっと幸せと
呼ぶのだろう‥‥‥。


釣った魚は内臓を取り出し、そのまま
贅沢に塩焼きに。
羽鳥さん達が持ってきてくださった
お肉や野菜はバーベキューに。
私は冷たい物が食べたいというみんなに
冷麺を作ることにした。


「あれ?‥‥凪ってどこですか?」


『多分洗い場かな‥。洗い物してる
 かも。皐月ちゃん見てきてくれる?』


「はい、行ってきますね。」


汗を拭い洗い場へ向かうと、背の高い
凪をすぐに見つけることが出来た。



「あ‥‥凪‥‥」


声をかけようとして、凪の両脇にいた
綺麗なお姉さん2人を見つけてしまい、
それ以上近づくのを躊躇ってしまう


スタイルが良くて色気もある綺麗な
2人に対し、短パンとTシャツと
色気のかけらもない自分を嫌でも
比べてしまうのだ


前に羽鳥さん達と食事をした時に
来た茉美さん達も大人っぽかった‥‥


凪は本当はそういう人がタイプなの
だろうか‥‥。だとしたら私のどこに
惹かれたのか分からなくなってきた。