遣らずの雨 下


「心配かけてごめんなさい‥‥。
 隠し事はしたくないから言うね‥。
 ‥‥向こうで偶然酒向さんに会って、
 もう気持ちがないはずなのに、
 胸が苦しくなったの‥‥。」


酒向さんに出会ったこと、紫乃さん
のことを凪にちゃんと伝える間も
ずっと私は凪の頬に触れていた


大切な人だから、やましい気持ちが
ないことも分かってほしかったし、
心配をかけたなら、尚更正直で
いたかったのだ。


「凪‥‥話を聞いてくれてありがと‥。
 そして迎えに来てくれて抱きしめて
 くれて嬉しかった‥‥。
 次に帰る時は一緒に帰りたい‥‥。」


首に手を回して抱きつくと、
凪の腕が背中に回されキツく抱き締め
てくれ、目頭が熱くなった。



『ん‥‥おかえり‥皐月。』


「ん‥‥ただいま。」


誰かの元に帰る。
そして誰かにこう言ってもらえる。
それが普通のようで、私にはあまり
なかった人生だった気がする


勿論それぞれに家族はあるけれど、
彼の存在はまるでもう1人自分が
いるのではと錯覚するほどに
2人で1つな感覚に陥るのだ



『風呂入れるから入って来い。
 その間にご飯用意しとくから。』


「えっ!?凪が作ったの!?」


『大したものじゃないぞ。』


どうしよう‥‥嬉しい‥‥。
私は料理は得意じゃないけど、ここで
生活するようになってかなり作れるようになって来た。


でも‥凪の手料理は初めて‥‥‥。
こんなに嬉しいことはない。


「食べたい‥‥」


『あまり期待するなって‥‥ほら
 疲れてるだろうからゆっくり入って
 こい。』


工房の上のお風呂と違って広々とした
バスルームに行くと、木の香りに癒され
湯船に浸かりながらうーんと伸びをした


酒向さん‥‥‥。


もし今私を必要としてくれる人が
居なかったら、きっとその胸に飛び込んでしまっていたかもしれない‥‥。


紫乃さんとどの道を選ぶのかは本人の
気持ち次第だから、私が何かを言える
立場じゃないと思った。


前に進む私を思ってくれてるのも
伝わってる‥‥。


今でも大切に思ってくれている
こともあの手から沢山伝わった。


あの時逃げずに向き合っていたなら、
違う道があったのかもしれない。


それでも私は、今、凪に会えた人生が
とても幸せで心がリラックス出来て、
彼の手を離したくない‥‥。



酒向さん‥‥
沢山の愛をありがとうございます‥‥。


酒向さんと出会って感じた人を愛する
という気持ちを忘れずに、私を見てくれる人の側で生きるので、これからの
あなたの人生が幸せであることを願って
る‥‥。