遣らずの雨 下

『(帰り‥駅まで迎えに行くから
 連絡しろ‥いいな?)』


「うん‥‥分かった。」


短い通話だけど、緊張が緩む凪の声に
リラックスすると、スマホを握りしめた
まま眠ってしまった。


『気をつけて帰るんだよ。
 またいつでもいいから好きな時に
 ここへ帰っておいで。』


「うん、忙しいのに色々ありがとう。」


皐月のお墓参りを終えてから、駅まで
送ってくれた父と別れると荷物を
コインロッカーに預けてから、手土産
を持って電車に乗った。


随分と顔を見せてないから、きっと
会ったら叱られてしまいそうだな‥‥


下車した後、通い慣れた道を歩いて
向かうと、懐かしい店構えに目頭が
熱くなる


ガラガラ


『いらっしゃいませ、空いてる席に‥
 ‥‥さっちゃん‥えっ?ほんまに
 さっちゃん!?』


ランチも終わり時を迎えようとしている
時間帯なのに、多くのお客様で
満たされているキッチン『むらせ』


私の第二の実家でもあるこの場所の
千代さんと修さんにどうしても
会いたかった‥‥


ここを離れる時も挨拶もせず離れて
しまったし、学生時代から今まで
お世話になった大切な人達だから
心残りでもあったのだ


「千代さん‥元気だった?
 忙しい時間に来てごめんなさい。
 これ、修さんと食べてね?」


『そんなん気ぃ使わんくて良かったに。
 元気な顔を見せてくれただけで、
 嬉しいやん。ここ座っとき?
 あんた!さっちゃんやよ!?』


相変わらずの温かい空気に、思わず
涙が瞳に滲むも、キッチンにいた修
さんにも笑顔で手を振った


何度ここに足を運んだのだろう‥‥。


静岡に行っても、ここほど通うお店は
まだ出来てないんだよ?


懐かしい美味しそうなご飯の匂いと、
賑やかな雰囲気を感じれただけで、
ここに来た甲斐がある。


『隣いいですか?』


えっ?


「ッ‥‥酒向‥さん‥」


懐かしい人の柔らかい表情に、いまだに
胸が締め付けられるのは何故だろう‥


私にとって初めて好きという感情が
芽生えた人だから?


それとも‥‥‥


『久しぶり‥‥帰ってたんだね。』


「はい‥父に会いに‥。ここにも
 来れてなかったので帰る前に
 来たかったんです。酒向さんは
 ランチですか?」


隣の椅子をひき座る姿を目で追い、
高鳴る心音にバレないように胸を
押さえる