遣らずの雨 下

『変わりはないか?』


「うん、平気。気候が合ってるのか、
 発作もないの。向こうの先生もとても
 いい人だから安心して?」


『そうか‥‥お前は沢山我慢して
 生きて来たから楽しいならお父さんは
 何も言わないよ。
 明日、皐月の墓参りに一緒に行こう。
 暫く行けていないだろう?』


「うん‥‥行きたい。」


久しぶりに父のマンションで食事を
共にし、静岡での生活の話を沢山
伝えた。


背中を押して見守ってくれている父には
お金の面でも体調の面でも本当に心配を
かけたから、沢山元気な姿を見せたいと
思っている。


お母さんとは会ってないのかな‥‥


わたしのせいで離婚する事になった
から、あんな事がなければ今でも
仲良く暮らせていたかもしれない。


『そう言えば、お前の上司の酒向さん
 だったかい?この間偶々会ってね、
 紗英の事を聞かれたよ‥‥』


えっ?


酒向さんに?


まだその名前を聞くだけで、胸が
締め付けられるなんて‥‥


「な、なにを聞かれたの?」


温かいお茶を淹れてテーブルに置くと、
父が私を見た後少しだけ小さな溜息を
吐いた。


『紗英は元気で幸せに暮らして
 ますか?って‥‥。彼は今でも
 お前のことを思っているんじゃ‥』


「それは違うよ!!」


『紗英?』


「‥‥酒向さんにはね、素敵な恋人が
 いるんだから‥‥。きっと迷惑を
 かけられた部下だから気になって
 らだけだと思うよ。」


心臓がドクドクと音を立てると、
久しぶりに胸が締め付けられ、慌てて
父が私に駆け寄った。


絶対そんなことはありえない‥‥


酒向さんは紫乃さんを大切に思い、
選んだのだから‥‥‥


疲れからか、久しぶりに起きた発作に
早めに眠る事にした私は、布団に
寝転がると凪に電話をかけた。


声が聞きたい‥‥‥

まだ離れて1日も経ってないのに‥‥


『(もしもし‥どうかした?)』


凪‥‥‥


電話だといつもよりも低く感じる
声のトーンなのに優しさが伝わってくる


「‥‥‥特に用事はないの。
 ただ声が聞きたかっただけ‥‥。」



『(フッ‥‥‥声だけ?)』


えっ?
 

声だけって‥‥‥。
何を言わせたいんだろう‥‥。


「ッ‥か、帰ってから言う‥‥‥。」


そんなの‥‥言わなくたって、
凪自身に会いたいに決まってるのに‥‥