遣らずの雨 下

普段言葉数が少ない彼が話す言葉を
一つでも聞き逃したく無くて、
今度は私が凪の方に向き直り、真っ直ぐ
見つめた。


『別に嫌いじゃねぇんだよ‥‥。
 2人とも優しくて良い親だと思う。
 でも何処かで血の繋がりとか、
 考えてて、早く自立したかった‥。
 だから祖父母がやってた工房に
 来ては帰りたくない理由にして
 住み着いた。』


凪‥‥‥


根が優しい凪は、育ててくれたご両親
な事が嫌いで家を出たんじゃない‥‥


血の繋がりとか言ってるけど、
きっと、もう自分は大丈夫だから
心配いらないって姿を見せたかったん
じゃないかな‥‥‥。


その気持ちはなんとなく分かるから‥‥


「凪‥‥お父さんに会って来なよ。」


『‥‥ん‥‥そうだな‥。』


愛情に血の繋がりなんて私は関係
ないと思っている。


世の中の恋人や夫婦だって
みんな血の繋がりがなくても
愛情で繋がっている。


私も‥‥お母さんとはずっと会えて
いないけど、血の繋がりがあるからこそ
お母さんの気持ちが痛いほど分かるのだ


迷惑かけてきた体の弱かった娘と、
15年間母と共に家で育った娘。


思い出だって、数えきれないほど
あっただろうし、共に過ごした時間も
想像できないほどあったはず


今はまだ向き合う勇気は出ないけど、
いつか会えることを願ってる‥‥




その後も、静かな空間で話しながら、
いつのまにかソファで眠ってしまった
私達は、次の日起きて顔を見合わせて
笑ったのだ


『じゃあ‥夜までには帰るから‥‥』


『新名さんありがとうございます。』


「いえいえ、2人とも気をつけて
 行ってらっしゃい。」


つかささんが車に乗った後、凪が
私の方をもう一度見たので首を傾げる
とフッと笑ってから乗り込んだ


大丈夫そうだな‥‥‥


あの後は殆どどうでもいい話ばかり
していたけれど、表情は柔らかく
なってたから、お父さんに向き合えると
信じてる‥‥


凪の車を見送ると、うーんと伸びをして
ここで過ごす1人からの休日に何を
しようかと迷ったけど、スマホを取り出しお父さんに電話をかけた


「‥‥‥もしもし、今大丈夫?」


『(ああ‥今日は休みだから。
 どうかしたかい?)』 


「ううん‥久しぶりに声が聞きたくて。
 夏になったら一度そっちに帰ろうと
 思ってて、お父さんが良ければ
 待ち合わせしてご飯でもどうかな?」


こんな気持ちになれたのは、
凪と家族について話したからかも
しれない‥‥


こまめに連絡するっていう約束だから、
時々聞く家族の声にはやっぱり他には
変えられない安心感がある気がする。


やっぱり家族っていいな‥‥‥
色々な形があるし、みんな悩みながら
も笑って、喧嘩して仲直りして、
そんなありきたりな家庭を私もいつか
持てるといいな‥‥