遣らずの雨 下

「やっぱり私じゃない方がいいと思う。
 ‥と、友達とか他の人で呼べそうな
 人とか居ない?」


凪が頼ってくれたのは嬉しい‥‥


でも、以前と違う気持ちに気づいて
しまったからこそ、その気持ちが態度に
出てしまってここに居られなくなる
かもと不安になる。


酒向さんのことがあってから日も浅い
のに、こんな気持ちになってしまって
申し訳なささえ感じているのだ


『お前、ここに来るの避けてるよな?
 なんで?』


「えっ?‥‥だ、だって‥‥親しく
 してもらってても、雇い主の家に
 気軽に入れる訳ないよ‥‥‥。」


『毎日お前の部屋に行くじゃん?』


それは食事を一緒にするって約束
したからであって、私が凪に対して
思う気持ちを凪は持ってないから普通に
出来ると思うんだけどな‥‥‥


雇った相手が自分に対してそんな
気持ちを抱いている事を知ったら、
凪だって嫌だと思う。


経験の少なさから、気持ちを隠すのも
上手くはないし、今は仕事と食事なら
普通にしていられる。


只‥‥この部屋の中で、普通にして
居られない気がして怖い‥‥‥


気軽に触れてきたり揶揄うように
キスして来たり、今だって繋いだ手を
離そうとしてくれない。


その一つひとつにいちいち反応して
気持ちがどんどん傾いてるかなんて
知らないでしょ‥‥


『安心しろ‥‥ただ眠れねえから、
 話し相手になって欲しいだけだ。』


凪‥‥‥‥


もう片方の手で頭に軽く触れると、
そこをクシャリと撫でフッと笑った。



「‥うん‥‥分かった‥ごめんね。」


今日は仕方ない‥‥


自分の意思で来た訳じゃなく、
凪が連れて来たのだから。


その笑顔に私も力なく笑顔を見せると、
手を引かれて倉庫の家の中に足を
ふみいれた。


「‥‥お邪魔します。」


相変わらず天井が高く、開放感がすごい
だだっ広い空間の真ん中に植えられた
木の存在に思わず見上げてしまう


前は気付かなかったけど、2階に続く
階段もあり、ロフトのような空間も
見える


「ほんと‥‥素敵な場所だね‥‥」


さっきまで入るのを躊躇っていたのに、
一歩足を踏み入れてしまうと、すでに
魅了されている自分に気付く。


凪が作った家‥‥‥。
ここは凪の好きが詰まってる‥‥。


『何か飲む?』


「あ‥‥じゃああったかいのがいいな。
 私も手伝っていい?」