遣らずの雨 下

『一緒は無理。』


「えっ!?だって兄妹なら一晩くらい」

『無理‥‥‥血‥繋がってねえし、
 俺は養子だからさ。』


えっ?


余りにもサラっと言われたけど、
聞いて良かったのかな‥‥


「‥‥そ‥そっか‥分かった。
 じゃあ私のベッドで寝てもらうよ。
 私はソファで寝れるし大丈夫。」


凪が無理ならこれ以上何を言っても
無理な気がしたから、立ち上がると、
エプロンに付いた土汚れをパッと払った



『おい‥‥‥なにも聞かねぇの?』


えっ?


「凪が私に聞いて欲しいと思えたら、
 いつでも聞くよ。私も凪にまだ
 言えてない事沢山あるんだよね。
 さてと、そろそろお店を閉めよう
 かな。」


座り込んで膝を抱えたまま上を見上げる
凪に笑顔でそう伝えると、私の左手を
掴んでその手を軽く握られた


『‥‥引っ張ってよ‥皐月‥‥。』


「‥‥私の方が力無いのに?」


仕方なくもう片方の手も使って
思いっきり力を入れて凪の手を
引っ張ると、凪が自分で立ち上がり
逆に手を引き寄せられてしまった


「た、立ち上がれるじゃん!
 もう!鼻ぶつけたし!」


鼻筋が綺麗に通っている凪と違って、
普通の鼻なだけに、その頭をさする



『フッ‥‥‥‥サンキュ。
 お前で良かった‥‥。』


ドクン

 
普段あまり感情を出さない人が偶に出す
珍しい笑顔や仕草は、心を揺さぶる。


もしもこの笑顔を引き出せたのが
私だったとしたら嬉しい‥‥


凪の事を考えると、
日に日にその思いが強くなっている
事に、いい加減見ないふりが出来なく
なってしまっていた。


『『いただきます。』』


約束通りカレーを作り、付け合わせに
常備してあった野菜のピクルスと、
つかささんが手伝ってくれたサラダを
テーブルに並べた。


血は繋がっていないかもしれないけど、
行儀の良さはとてもよく似ている‥‥


ぶっきらぼうなところが多いけど、
ふとした凪の品の良さだったり、食べ方
が綺麗なところは育った環境を
表している気がするのは、つかささんも
そうだったから。


「味は大丈夫ですか?」


凪は何度も食べてるからいいとして、
少し辛口寄りだったから心配になる


『美味しいです‥‥
 ありがとうございます。』


「いえ‥‥料理があまり得意じゃ
 ないから、安心しました。」


綺麗な顔でニコっと笑ってくれた
妹さんにホッとすると、3人で食事を
終え、シーツを取り替えたベッドの
準備をしていた。


『お風呂ありがとうございました。
 あと着替えもすみません。』