遣らずの雨 下

かなり伸びた黒髪をかきあげ、
サングラスを外した凪が、私の言葉を
聞いた後一気に眉間に皺を寄せた


『仕事中に来たんだよな?』


「えっ?あ‥うん‥‥でも
 お客様居なかったから大丈夫だよ。」


『はぁ‥‥悪かったな。』


頭をポンポンと触れる手に、怒っては
いないと伝わるものの、表情は険しい
ままだった。


大きな声を出さなければ下まで聞こえないとは思いつつも、お客様が来るまでは
外で庭木や花壇の手入れをしつつ、
2階を何度も眺めた。


詳しい事情は分からないけど、
この世に1つの家族だから話がちゃんと
出来るといいな‥‥


自分もできていないからエラそうな事は
何一つ言えない‥‥


それでも、産んでくれなかったら、
今生きていられなかったから、
お母さんの事は離れてても大切に
思っている。


凪のお父さんも大丈夫かな‥‥‥


チリンチリン


「あ‥‥凪‥‥」


疲れた表情の凪が大きく溜め息を吐くと、私が座り込んでいた側まで来て
伸びた髪の隙間から私を覗き込んだ


髪が短い時はそう思わなかったのに、
伸びたら変に色気が増した気がする


切れ長の瞳も、綺麗な鼻筋も、薄い
唇も前とは違って見えてしまう



『今日さ、アイツここに泊めても
 構わねぇ?』


「うん‥‥凪のお家だから、凪が
 決めたらいいよ。」



話が上手く出来なかったのか、
甘えたモードのような凪の頭を無意識に
撫でてしまうと、気持ちいいのかそのまま目を閉じてしまった。


凪が帰りたくない理由は分からない‥


私のように何か事情があるかもしれないし、何もないかもしれないけど、
こんなに弱った凪は初めて見る


「お疲れ様‥‥
 今日は凪の好きなカレーライスに
 しようか‥‥。」


『ん‥‥食う‥‥。』


体は私よりもうんと大きくて逞しいのにこういう時は、小さい子供みたいな
答え方をする


凪には沢山励ましてもらってきたから、
普段に感じない程度にやれる事を
やりたい。


相変わらず味付けに自信はないけど‥‥


「凪の倉庫の方に泊まるんだよね?
 食事は1人分増えても構わないから、
 着替えとか貸せるものは貸すね。」


言ってから、私のスタイルと彼女の
スタイルの違いにハッとしつつも、
部屋着くらいなら何とかなるだろうと
思った。