遣らずの雨 下

人付き合いをして来なかったとか、
友達がいないとか、話すのが苦手とか
そんなことは言い訳にしかならない。


私は凪を傷付けて怒らせた‥‥。
これだけは確かな事で、後悔しても
言ってしまったことは取り消せない‥。




「はぁ‥‥‥」


帰ってきたら謝ろう‥‥。
今のは確実に私が悪いから‥‥。


何時に帰ってくるかも分からないし、
もしかしたらあのまま彼女のところに
泊まってくるかもしれないけど、
ご飯だけ作って待ってみようかな‥‥。


17時にグリーンショップを閉めてから
晩御飯の支度を終えて下に行くも、
凪の車は戻ってきておらずで、
工房前のベンチに座って、膝を抱えて
しばらく待つことにした。



18時‥‥‥‥19時と時間ばかりが経過
して、スマホの画面を何度も見返す


電話したら早いって分かってるけど、
彼女と過ごしていたらと思うと、
画面を付けては消してを繰り返して
溜め息を吐く


‥‥もう‥口もきいてもらえなかったら
どうしよう‥‥‥。


自己嫌悪に陥ったのか、目頭が熱く、
勝手に瞳に涙が滲んでゆく。


!!


「あ‥‥‥ッ‥‥」


坂の下から聞こえた音に、俯いていた
顔を上げると、眩しいライトに目の前を
照らされ、それが凪の車だと分かると、
目尻から涙が溢れてしまった



ガチャ‥‥バタン


『‥‥ただいま。』


凪‥‥‥‥


酷い言葉を投げかけておきながら、
凪の顔を見た途端泣き出す自分を
見られたくなくて、両手で顔を覆う


『遅くなって悪い‥‥ずっと待ってた
 とかじゃないだろうな?』


「‥‥ッ‥‥グス‥‥ごめんなさ‥」


帰ってきてくれた‥‥


たったそれだけのことなのに、
今までに感じたことのない安堵感に
そのまま足元から崩れてしまいそうに
なる


「酷いこと‥グス‥言ってごめん‥‥」


怒られてもいいから、また明日から
今までみたいに凪と過ごしたい‥‥
ただそれだけ‥‥‥


伝えたいのに嗚咽が勝ってしまい、
胸が苦しくなると、凪の腕に抱き締め
られたのか、私の大好きな香りに
包まれた


『お前にあしらわれるとへこむ‥‥。
 泣かれんのもツラい。』


「ごめ‥‥ヒック‥」


『皐月‥‥‥顔見せろよ‥‥』


ドクン


凪の温もりが離れると、寂しさが
増すものの、顔を覆っていた手を
凪が容赦なしに引き剥がす