遣らずの雨 下

凪と食べる毎日に慣れてしまって
いたから、作り置きも何種類か
冷蔵庫に入ってるけど足りるかな‥‥


『今からお前の作った弁当を
 食うからいい。
 自分で行くって決めたなら何も
 言わねぇ‥。ただ‥‥‥‥』


「ただ?‥‥何?」


珍しく黙った凪が心配になり隣を
見上げると、屈んだ凪の目にかかっていた髪の毛が気になり、
咄嗟にその髪を横に流した。


どうしたんだろう‥‥‥
いつもの無愛想でぶっきらぼうな凪
じゃない‥‥‥


「‥明日の朝は一緒に食べよう。」


何も言わない凪にそう伝えると、
瞳が少し開かれ、その後すぐに
いつものようにフッと鼻で笑った。


『‥‥‥仕事上がるまでに発注
 しておけよ。弁当食ってくる。』


「うん‥‥」


何故だか凪が寂しいと
言っている気がしてしまった‥‥


私の勝手な思い違いかもしれないけど、
凪はやっぱり寂しかったんじゃ
ないのかなって‥‥


こんなこと言ったら怒られてしまい
そうだから言えないけれど、工房を
横目にパソコンに向かい売れた植物を
仕入れ先に発注をしていく


機械で木材を削る音、道具を使って
トントンと規則正しく叩く音が防音加工
してある工房から微かに聞こえてくる


凪の家具は丁寧に時間をかけて
作られるから、これからもたくさんに人に知ってほしいな‥‥‥


仕事を終えてから着替えをしてショップに降りると、集中して作業する凪の
姿を見てから外に出ると、酒向さんの
車がすでに停まっていた


『お疲れ様。乗って?』


「‥‥そこに乗ってもいいんですか?」


開けられた助手席に乗るのを躊躇って
いると、酒向さんが優しく微笑んだ


紫乃さんが乗られてる場所だと思うと、
どうしても後ろめたい気持ちにかられる


『駄目だったら開けてないよ。』


「‥‥‥ありがとう‥ございます。」


軽く頭を下げてから乗ると、
私が乗り込んでから静かにドアを閉めて
くれた。


相変わらずこういう紳士的な優しさを
スマートにしてしまうところが、
やっぱりすごいな‥‥‥


懐かしい酒向さんの香りに胸が一気に
締め付けられてしまったけど、深呼吸
をしてシートベルトをしめた


『この辺は詳しくないから、
 近くのカフェでも大丈夫?』