「それを言うなら、氷上くんだって! 人に傘を渡しておいて自分はびしょ濡れなんて、馬鹿なの? だよ!」
ふたりのちょうど真ん中の位置で傘を差して、どちらともなく駅へと続く道を歩き始める。
沈黙が気まずかったけれど、雨音がごまかしてくれた。
髪から制服までぐっしょり濡れたふたりの相合傘なんて、傍から見れば、滑稽だっただろうけれど。
「ありがとう。駅から家までは、お兄ちゃんに迎えに来てもらうから大丈夫!」
「……そう。じゃあ」
学校の最寄りの東駅に到着。
氷上くんに傘を返して、2番線へと向かう。
氷上くんの家はどうやら反対方向らしい。背を向け合って別れたかと思いきや、向かいのホームにいるのをすぐに見つけた。
「ばいばい、氷上くん!」
「……」
無視するのも忍びなくて手を振ってみたけれど、反応はなし。
その後すぐに、向かいのホームに電車が来て、氷上くんはそれに乗って去っていった。
「……うーん」
結局よく分からない人だったな、氷上くんって。
だけど、たぶん、これからも深く関わることはない。
────だから、きっと、ずっと、よく分からない人のままなんだろう。



