「ええっ!? ま、待ってよ氷上くん!」
慌てて背中を追いかける。
昇降口のガラス戸を押し開けると同時に傘を開くと、ほら、やっぱり2人でも余裕で入れる大きさ────なんだから。
リーチの長い氷上くんに追いつくのは、ひと苦労だ。
走って、走って、ぱしゃぱしゃと跳ねる雨水が靴下にしみ込むのも気にせずに走って、ようやく氷上くんを捕まえた。
「もう! 氷上くんってば!」
後ろから氷上くんの頭の上に傘を差す。
すると、今気づいたと言わんばかりに、氷上くんは怪訝な顔で振り向いた。はじめて、ちゃんと目が合った。
すみれ色の瞳には戸惑いが滲んでいるけれど、戸惑っているのは私の方だ。
「氷上くんが濡れる必要ないでしょ? あ、ねえ、氷上くんも電車通学? 東駅?」
「……」
「じゃあ、一緒に入ってこ! 駅まで!」
ぱちぱちと瞬きを繰り返した氷上くんは、珍しいものに出会ったかのように私をじっと見つめた。
それから、私が氷上くんの方に傾けていた傘に手をかけて、ぐっと、私の頭の上に差しかかるまで押し戻す。
「ずぶ濡れじゃん。馬鹿なの?」



