昇降口までの道のりがやけに遠い。
なんで、こんなもやもやした気持ちで1日を終えなきゃいけないの。
「先生のせいだ……」
先生が、私に声をかけたから。
先生が、生徒会室に行けって言ったから。
先生が、氷上くんのことなんか気にかけるから。
私に恨まれたって知らないからね、と脅しになるかも怪しい文句を心の中で唱えながら、昇降口にようやくたどり着く。
この短時間で止むわけもなく、ガラス戸の向こうではバケツをひっくり返したかのような雨が降りしきっている。
どうしよう。
傘は持っていない。
この雨の中、駅まで走っていくか。
それとも、もう少し雨足が弱まるまで、ここで待つか。
でも待ったとて、雨が落ち着くとも限らないし────……
考えこむ背後で、コツ、と足音がした。
つられて振り向くと、そこにはさっき別れたばかりの氷上くんがいた。
ちょうど靴を履き替えている氷上くんの左手には、彼のものだろうネイビーの折りたたみ傘が握られている。
きっと、氷上くんは朝しっかり天気予報を確認して家を出るんだ。
雨が降る日は、鞄の底に傘をきちんと忍ばせて。
想像に難くない。
────突然の雨に驚いたりなんかしない、私とは全然違う人なんだ。



