「だ、大丈夫……ですか」
情けなく震えた私の声に、氷上くんは焦りも怒りも混ざならない、全校集会で挨拶するときと全く同じ冷淡な声で返す。
「制服も体も無事。書類は全滅」
「ご、ごめんなさい!」
「……最悪」
「ほんっとうにごめんなさい! 責任は取るので────」
「いい」
「でも!」
「別にどうでもいいから、早く帰ってくれませんか」
ぴしゃん、と目の前にシャッターを下ろされた気がした。
掃除のひとつもせずに帰るのははばかられたけれど、氷上くんが放つ「さっさと出ていけ」の圧には、もう抗えなかった。
それに、これ以上ここにいたって、氷上くんをますます不機嫌にさせるだけだ。
────そして、私だって、氷上くんの態度にむかむかするだけ。
「ごめんなさい」
最後にもう一度だけ、深く頭を下げて、くるりと踵を返す。
生徒会室を足早に立ち去ると、廊下には雨のにおいが満ちていた。
うそ、今日って、雨だったっけ。
はたと足を止めた瞬間、ザアアと雨音が聞こえ始める。
お兄ちゃんってば、どうして「傘持ってけよ」って言ってくれなかったの。
天気予報を確認せずいつまでもお兄ちゃんを頼りにする自分を棚に上げて、心の中で八つ当たりした。
知らず知らずのうちに、ため息がこぼれていく。
さっきまでは、降ってなかったのに。
生徒会室になんか寄り道しなければ、雨に濡れずに帰れたのに。



