「それ寝癖?」
「へっ?」
「髪、跳ねてる。ぴょこんって」
「えっ!どこっ!?」
「後ろの方」
寝癖だけは完璧に直したはずなのに。
慌てて手ぐしで押さえようとしたけれど、肝心の跳ねた毛束が見つからない。
わたわたしていると「ははは」とからかうような笑い声が降り注ぐ。
まさか……。
「嘘だよ。引っかかってやんのー」
「うう、すぐそうやって馬鹿にする!」
「それで焦るってことは、どーせ今日も準備もそこそこに慌てて家飛び出して来たんだろ」
「別にいいじゃん、それくらい! 遅刻してないんだからセーフだよ!」
まだ1度たりとも遅れたことはないのだから、許してほしい。
もちろん、私だってもっと余裕を持って行動するべきだって自分でも思っているけれど――――……とそこまで考えて、ふいに頭の中に浮かんだ横顔。
感情の読み取れないポーカーフェイス。
私とまったく対極的な彼――――氷上くんなら、きっと、いつ何時でもちゃんと逆算して、前もってテキパキと動いているんだろうな。焦ることなんて全然なくて。
氷上くんは、私みたいな人を見て、どう思うんだろう。
呆れこそすれ、感心されはしない。
「……あ、そうだ!」
ついでに思い出した。
私、昨日づけで氷上くんの雑用係を拝命したんだった。
「ん?」
「ごめんね椿、しばらく一緒に帰れない」
「……は?」
「そういうことだから、よろしくね! ていうか、椿もそろそろウォーミングアップ始めた方がいいよ!」
ドリンクの入ったジャグをよいしょ、と持ち上げ、早くも汗を流して干からびかけている部員たちの方へ向かう。
「……っ、おい」
背中で椿が何か言ったような気がしたけれど、うまく聞き取れなかった。



