「何の御用ですか」
「えっと……、さっき、久城先生から頼まれて」
思い浮かべるのは、つい数分前の職員室での出来事。
放課後、部活終わり。
男子バスケ部のマネージャーをしている私は、マネージャー業務のひとつである、部室の鍵の返却を遂行すべく、職員室を訪れていた。
そこで運悪────偶然にも、学年主任であり私のクラスの担任でもある久城先生に捕ま────声をかけられたの。
「茅原! ちょうどいいところに来たな」
「へ? なんですか、急に」
「ちょっと頼まれてくれ。帰りついでに、生徒会長の様子を見てきてほしいんだよ。それで、そろそろキリのいいところで切り上げて帰れって伝えといて」
「ええっ。帰りついでって言いますけど、生徒会室と昇降口って反対方向────」
「いいからいいから。あいつ、しれっと最終下校時刻無視するから困ってんだ。よろしくな」
職権濫用で訴えたらぎりぎり勝てるかもしれない強引さで言いくるめられ、送り出されたというわけである。
「そろそろ最終下校だから、キリのいいところで切り上げてって伝えに来たんだよ」
「そう。どうも」
こちらをちらりとも見ず、淡白に返事する氷上くん。
その声は、“氷の生徒会長” の二つ名に違わない冷たさをまとっていた。
氷上 侑生くん。
私と同じ2年生で、この学校に通う誰もがきっと、その名を知っている。全校生徒を統べる、生徒会長だから。
生徒会長として集会や学校行事で挨拶する姿は、何度もぼんやり遠目に見てきたけれど、こんなにも近くで顔を合わせるのは初めてだった。



