「ふうん。じゃあ、いいじゃん。些細なアクシデントってことで処理しちゃえば? いつまでもずるずる悩むほどのもんでもないでしょ。しかも、相手はあの “氷の生徒会長” なんだし?」
誰しも知っている、氷上くんの二つ名に心がぴくんと反応した。
「あの……私よく知らないんだけど、氷上くんってどうして “氷の生徒会長” って呼ばれてるんだっけ?」
「あれ、知らない? 人を寄せつけない “氷の生徒会長” 。話しかけても顔色ひとつ変えず素っ気ない、生徒会室にひとりで閉じこもってる孤高の存在だから。苗字の “氷” を取って誰かがそう呼んだのが、定着したんでしょ」
勝手に、生徒会長としての威厳的なところからそう呼ばれているのかと思っていたけれど、違ったらしい。
たしかに氷のような冷ややかさを纏っているのは、わかる。
昨日のあの短い時間の中でも、それは感じられて、でも────。
昇降口で手渡された傘、
濡れて重く透けたシャツ、
相合傘。
氷上くんを構成するものがすべて “氷” ではないような気がして……と考えたところでキーンコーン、とチャイムが鳴り始めた。
「予鈴だ。もう戻らないと────って、まひる全然お弁当進んでないじゃん! もうっ、早く詰めこんで!」
「むぐっ、むむっ」
慌てて残りのおかずをかき込む。
のどを詰まらせそうになって涙目になりながら、それでも、氷上くんのことが頭を離れてくれなかった。



