交わる視線に、一瞬時間が止まったかというくらいの錯覚にさえ襲われて
今やもう全身で脈を感じられるくらいの熱さに、
朝岡さんに見つめられると、息をすることさえ許されない感じがした。
「……あ、あの……っ!!
朝岡さ──…」
状況に耐えられず声を出すあたしに、朝岡さんは笑って人差し指を口に当て
「───…昔習わんかった?」
────…え、え?
「何を………」
「───…図書館ではお静かにって、さ。」
────……!
─────……ふわっ…
朝岡さんの匂いが
朝岡さんの温もりが
………そう、何もかも
朝岡さんとの距離がゼロになる。
「───…あさ……」
すっぽりと抱き締められて、平気なわけがない。
「───…彩……」
バクバクする心臓は全身を駆け巡り、身体中にありとあらゆる変化を及ぼすから、
「~~~~~~……ッ」
立っていられそうもない体を、どうにかしてと叫びたくなった。
朝岡さんはそんな様子のあたしを見て、ふっ…とイタズラに笑い、
「────なーんちゃって♪」
そう言って、パッとあたしから体を離した。
「………なっ……」
「からかうと可愛いな、彩は。からかいがいあるよ。」
「~~~~~~…!」
かっからかったの…!?
「ちょっ…朝岡さん…っ!!」
「あははは♪」
朝岡さんはよほど面白かったのか、涙を拭いながら歩いて行った。
………待ってよ。
待ってよ………!!
ふとした仕草や何気ない会話だとか、
“忘れたくない”って
朝岡さんの心を読めないけれど、あたしはその心に存在しているのかな、とか。
“知ってみたい”って
今みたいな真剣な眼差しとか、切ない表情とか、掠れた声で呼ばれた自分の名前とか
“覚えておきたい”って
そんな風に思ってしまったの。
……ねぇ
まだ確かに恋をする余裕はないんだけど
恋はしないと心に決めていたんだけど
ほんの少しずつでもいいの?
あなたに揺れ動く心を
認めてもいいの?



