「……彩ったら…
急に帰って来たと思ったら一体今度は何を言い出すの?
ねぇお父さん。」
お母さんは驚きつつも照れながらお父さんを促し、
「そうだぞ彩。
そんなゴマ擦ったってお小遣いも何も出ないぞ?」
「……ちっ、違うよ!
ホントにそんなんじゃなくて…」
慌ててお小遣い要求容疑を否定するあたしに、お父さんはフッと笑みを溢し、
「───…まぁいいか。
お金でも何でも、困った時はいつでも帰っておいで。
家族なんだから。」
喉に貼り付いた感情が爆発しそうだった。
…───一度でも。
一度でも、お父さんとお母さんが働いたお金盗られて無駄にしてごめんね。
“学校辞めたい”なんて思ってごめんね。
せっかく産んでくれたのに、死のうとしてごめんね。
「───…っ…
───…ごめ…っ…ね…っ……」
────…ポツポツ…
真っ白いテーブルクロスの上、涙の粒が次から次へと落ちていく。
「───…彩?」
「───…えへ……
ちょっと学校で嫌な事とかあって……
───いっ……
………今のお父さんの言葉が嬉……しかった……っ……」
「───…彩……」
「…ありがとう…」
お父さんとお母さんはあたしの話にずっと耳を傾けてくれた。
さすがにレイプやいじめの事は口に出せなかったけど……。
勉強や実習が大変な事、
クラスでなかなか馴染めなかった事、
思ったより一人暮らしが大変だった事──…。
「…───でも…」
「ん?」
「だからこそ、ちょっとした人の優しさとか温かさが身に沁みるようになったよ……。」
困っている時とか、辛い時。
何も言わずに手を差し伸べてくれる人達に出逢えたよ。
多分あんな経験してなかったら、ずっと人の優しさなんて分からなかったかもしれないね。
ずっと殻に閉じ籠って、もう何も見ようとも聞こうともせず、何も信じなかったと思う。
“彩”
雨が降りしきるあのバス停で見た夢。
誰かが手を差し伸べてくれた夢。
きっとあれは────…



