「…ほんとに…?
ほんとに何もなかったの…?」
無言で何度も頷くあたしをマリアは強く抱き締め返し
「───…かった…
良かった───…
良かったね彩───…」
「…っ」
マリアの言葉に
涙に
ただコクリと頷き返すのが精一杯。
でもはらはらと滴る涙は、もう悲しみの青には染まらない。
「───…ふっ…う~~~っ………」
ちぎれそうなくらいの嗚咽も、今は苦しいとも思わない。
だって不安だった。
何をしてても“もしも”の恐怖が頭をよぎって未来が見えなかった。
一人で抱えるには、あまりにも厳しすぎて。
「───…大丈夫だよ。
彩、もう大丈夫───…」
力強く優しい言葉とは裏腹に、マリアも声が震えていたりして。
ポン、ポン────…
あたしの頭を撫でてくれるその手の温もりに、また涙腺緩んだりしてね。
“妊娠してないのに嬉しくて大泣きしてる”なんて、産婦人科では妙な光景にも気にせず…
────…パタン…
あたしはマリアに手を引かれ、不安と安心が入り交じった産婦人科のドアを開けた。
────…ビュウッ!
その途端、待ってましたとばかりに寒風がお出迎えしてくれて、あたしは身を縮める。
「…さむぅっ…
ねぇマリア、何か温かい物飲み───…」
「────…」
「…マリア?」
どうしたことか、マリアは一点を見つめ一歩も動かない。
「……?どうしたの…
────あ…」
マリアが見つめる先を見て、あたしも動きを止めた。
────…フワフワ…
灰色の空の下、粉雪が舞うアスファルト。
車道に沿う白いガードレールにもたれ掛かり、じっと佇んでいる人影は───…
「───…行っといで?」
「……」
「────…純。
あそこでずっと待ってたんだろうね。」
「……」
「…───純の事だもん。
バカだからここまで来ちゃったんじゃない?」
────…サクッ…
「───…あ…」
降り積もった雪を踏みしめた音に気付いたのか、朝岡さんは顔を上げた。



