視界に映るのは、穏やかな陽が当たるやわらかい場所。
本来ならば、こんな場所に来る時。
大多数の人は、妊娠や子供の成長に胸膨らませて訪れる場所だろうに…。
…────カタカタ…
あたしはそんな状況とは正反対。
小刻みに体を震わせ、ただただ恐怖に怯えていた。
「───…今日はどうされました?」
せっかくにっこり微笑みかけてくれる受付の人に目を背け
「───…あ…の…
妊娠…と…性病…の検査をお願いしたくて……」
「かしこまりました。
こちら記入お願いしますね。」
「…あ…はい…」
…───この時点で不安が高まり、既に涙が浮かんでいた。
そんなあたしに更に追い討ちをかけるのは
「…──可愛いね。」
「…ふふっ…」
───…隣のイスに掛けていた妊婦さん。
もう臨月近いのか、お腹に手を当て幸せそうに微笑んでいる“母”の姿。
旦那さんと幸せそうに今までのエコー写真を見て笑ってる。
「……」
────…ポツン…
突如感じてしまった天と地の差。
同じ空間にいるのに、どうしてここまで違うのだろう。
どうしてこんなに虚しさを感じなきゃいけないんだろう。
────…ギュウッ…
「…彩?」
「…」
…────カリカリ…
マリアの声に唇を噛み締め、あたしは問診票に意識を集中して必死でペンを動かした。
───…悲しい事に、この時点で“妊娠”という奇跡を素直に喜べない人間になってしまった。
自分はおろか、きっと人の妊娠も───…
朝岡さんの事は好きだけど、きっと結婚も出来ないだろうなと思った。
…───結婚、妊娠、出産。
普通なら“素晴らしい事”が全て嫌になってしまった。
女性の幸せがあたしにはトラウマになった。
そんな冷めた自分が悲しい。
でもきっと思い出してしまう。
“乗り越えられる”なんて
“忘れられる”なんて
そんな日は、あたしにはいつ来るのか───…
「…彩…」
「え…えへ……
手……震えちゃって…」
思うように動かない手に、無理矢理繕った笑顔が歪んだ。



