「……ケーキ…
無駄にならなくて良かったなぁ…」
────そう。
クリスマスはちょうどマリアの誕生日が被っていて。
あたしはクリスマスに予約しておいたケーキを急遽バースデーケーキに変えた。
お祝いしようと思ったのは今日交わした朝の会話。
『……じゃ、バイト行ってくるね。』
『あ、うん。
マリアあのさ……』
『ん?』
『……あの、マリア今日誕生日でしょ?
あたしの事なら気にしないでゴローちゃんとゆっくり過──…』
『───…会わないよ。』
『…え?』
『吾郎、ケーキ屋でバイトしてるからさ…
この時期は鬼みたいに忙しくていつも会わないの。』
『…そう…なの……?』
『───…うん。
だからなるべく早く帰ってくる。』
『…え…』
『……女二人で過ごすクリスマスも悪くないでしょ?』
マリアが笑顔でそう言ってくれたから。
あたしは何かしたくてこのケーキを受け取りに来た。
でも……
「……たかがケーキ受け取りに来るだけで、こんなに体力使うなんて思わなかったな…」
人混みになかなか混ざる事も出来ず、
人通りが少ない道も怖くて行く事が出来ず…。
早々と明るいうちから出掛けたはずなのに、時計の針はもうお昼過ぎを指していた。
「…帰ろ…」
─────…コツ…
再びハンカチ片手に口元を押さえ、フラフラ歩いてる姿はきっとクリスマスの街並みに浮きまくりだ。
「どこでご飯食べる~?」
「予約取ってある店あるんだ。そこ行こう。」
「わーい嬉し~♪」
寄り添う恋人の会話に何故か胸が軋み、うつ向いてしまう。
……いいなぁ……。
あたしもあんなクリスマス過ごしたかったな…。
特別じゃなくていい。
何気ない一日が欲しかった。
─────…キュッ…
歩きながら腕で涙を拭い、あたしは再び潤む視界を歩き出した。
……朝岡さん…。
今頃何してるかな?
友達多いだろうし、誰かと過ごしたりしてるかな?
それとも一人寂しくしてるのかな……?
会いたいな。
会いたい───…



