ふわふわとあたしの髪をいじる朝岡さんは目を細め
「───…蝶…
みたいやな…」
キャバ嬢、愛美としてのあたしをジッと見つめた。
「…これでも仕事ですからね、一応。」
「うん。ビックリした。
見たことない顔つきですげぇなぁって。」
「あはは。実際は余裕なんて全然ないよ。必死だもん」
「…そっか」
朝岡さんは月の光に負けないくらい優しい笑みを零し、
そして───…
「───…じゃあ…
そんないっぱいいっぱいの彩さんに、改めて誘っていい?」
「え?」
「……クリスマス」
そこまで言って、あたしの耳に顔を近づけ──…
"Will you stay with me ?"
────かぁぁっ…
お得意の英語と抜群の発音。
極めつけは胸を踊らせる低い声。
予想外のお誘いに、あたしの頬は一気に熱を帯びる。
……さすが帰国子女…。
赤面するあたしを見て朝岡さんはフッと笑った。
これもあたしをからかってるうちに入るのか、それとも本気なのか。
「……いっ…いきなり英語で誘うなんて反則だし!!」
「あはは♪」
「…んっとにもう…」
……でも。
意地悪な微笑みに隠された裏に、ちゃんと優しさがあること知っているから。
「…うん…。
───あたしも…
朝岡さんとクリスマス一緒にいたい…」
「───…ありがと。
…嬉しい…」
照れるあたしの額に優しいキスが落ちる。
「……でもクリスマスは意地悪しないでね。優しくしてね。」
「……うーん。自信ないけど頑張るわ。うん。」
ふふっと笑い合い、あたし達は来たるクリスマスを心待ちにしていた。
───…この時の二人には
まさかこれがまた守れない約束になるなんて、思いもしなかったよね。
楽しみだった。
本当に楽しみにしていたのに。
───朝岡さん…
あたしはまだ、ここで時間が止まったままだよ。
───…ごめんね。
本当にごめんね。
輝いた蝶の行き先は、
あまりにも残酷な空だった



