第33章 メサイア
───…朝岡さんと互いに思いが通じ合った翌日。
「───♪…」
そこには、早起きして鼻歌混じりにオーブンを覗くあたしがいた。
「……おぉーっ♪膨らんでる膨らんでるっ!!」
オーブンの熱色に灯されて、みるみる生地が膨らんでいくのを見ては一人大興奮。
甘い香りが部屋いっぱいに広がり、さらにテンション急上昇。
──────チンッ♪
待ちわびていたタイマーが鳴り、あたしはいそいそとオーブンを開けた。
「───…わぁっ…!!」
────ふわっ…
ほわほわと焼き立ての甘い湯気をくぐらせるシフォンケーキ。
「…出来ちゃった…」
料理は好きだけどお菓子となると失敗が多いあたし。
だから何となく今までお菓子作りを嫌煙していたものの───……
「…喜んでくれるかなぁ…」
そう、好きな人の為。
好きな人が喜んでくれれば、と。
苦手な早起きもお菓子作りも頑張っちゃう単純なあたし。
朝岡さんの為なら早起きもお菓子作りも全然苦にならないから不思議だ。
────キュッ♪
「…よし、っと♪」
包装紙からラッピングから、リボンの結び方まで全てに気を配り
────ピンポーン!
ナイスなタイミングで鳴ったインターホンに顔を上げ
「───はーい!」
丁寧にラッピングが施されたお菓子を大切にバッグにしまい込み、玄関まで小走りで急ぐ。
めっきり寒くなり、もうコートは絶対不可欠な季節。
真っ白い雪のようなコートとマフラーを身に付け、玄関に付いている鏡でもう一回身だしなみチェック。
そして
─────カチャ…
「───…おはよ、彩。」
「お、おは…──んっ…!」
──────…
扉を開ければ、今日も甘いキスから一日が始まる。
「っ」
唇が離れ、
「───…不意打ち。」
「…っ」
ふっと笑い、あたしの頬に触れるあなたの仕草に溶けそうになる。
「…行こっか?」
「うん♪」
─────キュッ…
どちらともなく手を絡め、二人は仲良く歩き出した。



