「───分かった。
今あたしもT大来てるんだ。」
『…へ?何だ結局来たの?
今正門いるけど、どこにいんの?』
「───ホール前。
ねぇ美月、あたしあと5分くらいでそっち向かうからそこで待ってて。」
『え?ちょっ─…』
────プツッ!
電話を切ると、あたしはますます急ぎ足で係の人に近付いた。
「───…あの、」
「はい、どうされました?」
「───…すみません。
さっきの“紅”のヴォーカルの方に、この手紙を渡しといてくれませんか?」
あたしはさっき折ったハート型の手紙を男の人に差し出した。
「……紅のヴォーカル…
───…あぁ、リーダーの朝岡のことですね。
───…失礼ですがあなたは……?」
「───…ただのファンです。
それ、よろしくお願いします。」
あたしはサングラスを掛け直し、ペコリと頭を下げた。
─────………
立ち去る時。
もう一度だけ振り向いて、じっとホールを見つめた。
「………」
………こんなに近くまで来れた事。
こんなにもあなたを近くで感じられた事。
───…全てがまた明日に繋がる。
また明日も生きていこうと思わせてくれた。
また明日から頑張ろうって思えた。
───…朝岡さん、ありがとう。
あたし、まだまだ頑張れる気がするよ。
まだまだ頑張って生きていける気がするよ。
もう少し時が経ったら、
あたしは朝岡さんみたいに強くなれるかな?
人に優しくなれるかな?
人を励ましたり出来るかな……?
朝岡さん。
あたし、あなたのように真っ直ぐ強く在りたい。
あたしは生きていくにはまだまだ未熟で
すぐ弱音吐いたり、現実から逃げたりしてしまうから。
昔の自分を許せるようになれたら───…
今の自分を少しでも好きになれたら───…
「……そんな自分になれたら──…
あなたに会いに行ってもいいかなぁ……」
─────…カツ……
あたしは涙を拭いながら、ホールに背を向けて歩き出した。
近くて遠い声に
傷だらけの背中を支えられながら。



