見覚えのある綺麗に綴られている字と
何度も心の中で呼んでいた、直筆で書かれている名前を見た瞬間
─────…
紙切れは再びあたしの手をすり抜け、音を立てず静かに床に舞い落ちた。
「───う……そ……」
うそでしょう?
だって
これが扉に挟まれてたって事は
「───…ここに…
来てくれたってこと…?」
────カタカタカタ……
そんな───……
どうして?
一体どうして───…
理解も納得も全く出来ないけれど
でも確かに今訪れた“現実”に無性に震えが止まらなくて
「───…朝……岡…さん……?」
朝岡さんなの?
あなたなの───…?
まるで手紙に話し掛けるかのように名前を呼び
───カサッ……
やっとの思いで紙切れを拾い上げた。
───────────
DEAR you
……Sorry,
late in the evening.
How are you doing?
Will you accept
this ticket?
But I don't want to
press you to come.
I derive a lot of pleasure from singing a song.
I'm very glad if you
think so.
I all desire the happiness and health of you.
……Thank You.
───────────
「……っ」
視界がぐにゃりと曲がっていく。
───…それは
本当にあたしの事を考えてくれている精一杯の手紙だった。
だけどあたしの負担にならないようにと
───…綴られているのは英語だった。
きっと…
日本語だと気持ちがストレートに伝わるのを懸念したのか、英語で極力意味が分からないようにと。
……そんな控えめな気持ちが、一枚のライブのチケットの裏に綴られていた。
あたしの事を細心に考えて。
「───…朝岡……さん……っ」
ねぇ
あなたはどんな思いでこれを書いたの?
どんな思いでこれを届けに来たの───…?
────…ポタッ…
────…ポタッ…



