───…入店して1ヶ月。
いつの間にかあんなに恐れていた保証期間は過ぎ、あたしはゆっくりだけど自分なりの接客を掴み始めていた。
“指名”や“売り上げ”にこだわり過ぎず、客にがっつかない。
だって、あたしは数や順位を気にすると自分で自分を追い詰めて自滅するタイプだから。
それよりも、マイペースに“人との交流”を楽しんだ。
「あはは。愛美ちゃんは見た目と逆で、話すと面白い子なんだね。」
───…あたしは何故か見た目とギャップがあるらしい。
「……橘さん。そんな笑わなくても。」
「いやいや……。
愛美ちゃんの話聞いてると笑っちゃうんだよ、勝手に。」
「……えー……
何かそれって、勝手にあたしの毎日ネタになってません?」
「あはは」
───…お客様が“笑顔になれる”という嬉しい理由で、またあたしと話す為に店に来てくれるようになった。
……それが自然と指名へと形を変え───…
「───えー……
今月の3位は愛美!」
────ザワッ……
「───きゃー!!!!
まなちゃんすごいすごいっ!!!!いきなりナンバー3だって!ナンバー3!」
────ギューッ♪
「……く、苦しいよぉー萌ーっっ!」
「いやんっ!だっていきなりトップ3入りなんて快挙だよっ、まなちゃんっ!」
萌が興奮してあたしを抱き締めてくるのも、無理はない。
───入店して1ヶ月。
今やもう、Heavenのトップ3の歴史は完全に塗り替えられていた。
ナンバー3の愛美。
ナンバー2の萌。
ナンバー1の美月。
……そして、また学校と言う名の地獄が始まっても
「あいつ援交してるの見たよ~」
そんな風にまた勝手に噂されて笑われても
「───愛美ちゃん、また来たよ。」
そう言って、あたしを必要としてくれる人の為に、あたしは今日もここで輝きを放つ。
ここでは、少なからずあたしを必要としてくれる。
こんなあたしを。
だから今日も、必要としてくれる人の為にここに立ち続ける。
“彩”
その名前を呼ぶ人は
もう誰もいない。



