「───君は面白い人間だな。」
「…へ…」
「今まで僕を接客してきた子は、みんな同情のセリフに憐れんだ目で見つめるお決まりパターンばっかりだったが……
自分の経験を話して、励ましてくれたのは君が初めてだったよ。」
「い、いえ…そんな…
ただ自分の話をしただけですから……」
「君みたいなまだ若い人間が、そんな純粋に親を敬うだなんて珍しい。」
「そ、そうですか…?」
あたしはお客さんをしどろもどろしながら見つめた。
「───…あぁ。
君に励まされたよ。ありがとう。」
そのお客様は“また来る”と笑い、その日は店を出て行った。
手渡された名刺には、氷室という名前に大手企業の“社長”と言う肩書き。
───…そしてその日を境に、氷室さんはあたしを指名して来店してくれるようになった。
あたしがキッカケで、氷室さんは娘さんとの距離を少しずつ縮めているらしい。
今日は娘さんが作ってくれた焦げたケーキを食べたとか、
昨日は一緒に宿題したり、テレビを見ながら笑ったとか───…
氷室さんが笑って娘さんの話をするから、あたしも嬉しくて笑う。
……そんな接客。
「───ちょっとちょっと愛美ぃ~!
あんたすごいじゃんっ!!
指名も売上げも増えていってるし、あの万年フリーの太客、氷室さんの指名ゲットするなんて!!」
───…更衣室。
美月は大興奮でグラフ表を指差し、あたしの背中をバシバシ叩いた。
「…え?」
……成績?
そこであたしは、やっと自分がグラフ表を駆け上がっている結果に気がついたんだ。
……あれ……
いつの間に…
「───ちゃんと自分らしさを出せてる結果なんじゃない?♪」
「………」
美月に小悪魔にウインクされ、あたしは頭で何かが弾けた。
……あぁ。そっか。
そうだったんだ。
あたしが出来る接客。
───それは
“誰かを励ます”接客。
辛い経験、
悲しい経験、
苦しい経験、
楽しい経験。
起こった全ての経験を元に、それで誰かを励まして勇気付ける事。
……それが
あたしだけに出来る、
あたしらしい接客かもしれない───…。



