「…ある日いきなり、親の言う事が聞き入れられなくなりました。
些細な事で怒られては腹が立って、言い合いや口喧嘩ばっかりして……
……家出ばっかしてました。」
「……家出?」
「……はい。」
────…今も鮮明に記憶に刻まれている。
『お父さんもお母さんも嫌い!全然あたしの事分かってくれないじゃん!!』
───募る苛立ちがついに爆発、抑えきれない怒りの矛先は両親だった。
『───何で産んだの!?
産んでくれなんて頼んでないよ!!』
お父さんとお母さんに最低最悪な言葉を吐き捨て、家を飛び出した。
……冬の星座が夜空でひしめき合う中。
あたしはもちろんどこにも行く宛なんかなく、一人公園にいて。
寒空のせいか、理性が戻って来たのか……
あたしは自暴自棄になって、泣く以外術がなかった。
「……些細な事でした。
でも、どんな些細な事でもあたしにはうざったくて堪らなかった。」
「………」
「───…でも、あんな酷い事言ったあたしを…
ちゃんとあたしがいる場所を探して、見つけに来てくれました。
“一緒に帰ろう”って、何食わぬ顔で。」
“風邪引くよ、帰ろう”
“美味しいご飯作ってあるから”
「……その時、親の無償の愛を感じたって言うか……。
迎えに来てくれた親の背中がずぶ濡れだったのを見て……
あんな酷い事言った自分が、初めて恥ずかしくなりました。」
「……」
「……今一人暮らしするようになって、親の有り難みが身に染みました。
ご飯も洗濯も掃除も……
何も一人前に出来ないくせに、よくあんな口が裂けるような生意気言ってたもんです。」
「……」
「えっと…だから…
娘さんも多分……
自分が親になったり、親を亡くした時にそういうの嫌でも分かるんじゃないかなぁ……って。」
「……やっぱり慰めか?」
「───あ!!いえ!ごめんなさい。慰めで言ったんじゃないです!!
ただ……その……持論みたいなもんです……。」
「…ふっ…」
───沈黙の後……
その人は、初めてあたしに笑いかけてくれた。



