「──…あ、いえ…」
あたしは慌てて視線を逸らし、笑顔に切り替える。
……しまった。
ガン見し過ぎたかな?
でもついつい視線が行ってしまうのはどうしてだろう……。
────カラン…
周りは賑やかなのに、あたし達二人の間だけは妙に静かな空気が流れる。
……もしかして、この人は静かにお酒を飲むのが好きなんだろうか。
それとも人が苦手とか?
あたしの接客が悪いっていう最悪な予想だけは外れてほしい。
「───…君はいくつ?」
「…え…18…です。」
「……ふぅん…。
じゃあまだ高校出たくらいか?」
「はい。今は昼間大学に通ってますけど……」
「…へぇ…」
───…ビックリ。
まさか相手から喋りかけられるとは思いもしなかった。
……けど意外。
このダンディーなおじ様、話してみると案外喋りやすい人かもしれない。
「……わたしにも、君と同じくらいの娘がいるよ。」
「へぇ…!娘さんおいくつですか?」
「今は高校三年。」
「わぁ、じゃあほんとに私と年近いですね♪」
「……あぁ、そうだな……でも───…」
「?」
娘の事を喋ると、その人はほんの少し笑顔を浮かべていた。
しかしそこまで口にすると、またさっきの悲しい目をし───…
「───…娘とは喧嘩してばかりだよ。
俗に言う“反抗期”ってやつみたいでね。
もともとわたしが仕事人間だったし……。
家庭をバラバラにしたのはわたしだから、今更言い訳言っても仕方ないんだが……」
────カラン…
「…………」
この人……
もしかしてそれが原因で飲みに来てるのかな…?
だからそんな寂しい目をしてるのかな……。
「───…あの、」
「慰めはいらないよ。」
「いえ、そうじゃなくて…
あたしにもありました。
反抗期……。」
「………」
「多分中学くらいですかね…。
あたしも、今では信じられないくらい親に反抗してました。」
「君も?」
「はい。親に何言われてもうっとうしい時期がありました。毎日喧嘩してましたよ。」
あたしは空いたグラスにお酒を注ぎながら思い出を巡らせた。



