「───まず氷を入れて、お酒を大体この辺まで入れる。
あとは水で割って、このマドラーで混ぜて──…
そう、それでOK。」
─────カラン…。
……意外に難しいし気ー遣うな……。
入れ方ナチュラルにするまで時間掛かりそ……。
続いて、煙草の火の付け方や、グラスの持ち方、お酒の種類……
そして、指名の仕組みや営業の仕方、キャスト同士のルールを簡単に教わった。
「───…えーっと…
誰も指名していないお客様が“フリー”で……、
えっと、そのお客様から本指名を頂くように頑張ればいいって事ですか?」
「……まぁそんな感じかな。
今日はとりあえずヘルプに回ってもらうけど、バンバン指名取って売り上げ伸ばして、是非美月に追い付いて。」
「え」
「───…うちの保証期間は1ヶ月って決まってるんだ。」
「……保証…期間…」
「……それまでは指名が取れなくても給料は出るけれど、それ以降は自分で指名取らないと給料は下がっていく。」
─────ゲッ!
それは困る、絶対困る!!
な……
何が何でも給料下がらないように頑張らなくては……。
「───…あ、それからこれを渡しとこう。」
「?」
────スッ……
机に置かれたのは白地の名刺とピンクのケータイ……。
……これは────…
「───愛美専用の名刺と、営業用のケータイだよ。」
「…あ、ありがとうございます……。」
───すっ……ごーい……。
何かもう……
今いるのはどこの世界なんだホント……。
────カツカツ……
研修を終え、一通り教えてもらった事を頭で復習していると
「───お疲れ、研修どうだった?」
待機席から、美月がニコッと微笑む。
「───んー…、何か覚える事いっぱいで頭パンクしそう……」
「ぶっ、大丈夫大丈夫。
そのうち分かってくるよ」
「………」
美月の横顔をチラッと拝見すると
「─────」
ドキッとする程、いつもと顔付きが全く違い
「───美月さん、指名です。お願いします。」
「───はい。」
“Heaven”のナンバーワンとして立ち上がった。



