───…名前…?
「……えーと……
それってつまり、“源氏名”とかいうやつですか?」
「そうそう、それだよ。
よく知ってるね。」
────…ひぇ~……。
やっぱりあるんだぁ………こういうの……。
感心して頷くあたしを、店長はペンをくるくる回しながらジッと見つめ
「───…ん~……
本名の“彩”っていう字も綺麗だからねぇ……。
そのまま行くってのもありだけど、どう?」
「───いっ、嫌です!!」
───…即座に断った事に対して驚いたのは、店長だけではない。
無意識にそう口走っていたあたし自身も驚いたくらいだった。
「……ご、ごめんなさい…。
でもあたし……
この名前ホントに嫌いで……
どうせなら名前変えたいくらいなんで……」
────…そう。
ここにまで弱い自分を連れ込みたくない。
新しい場所に、弱い自分なんかふさわしくない。
今までの自分はいらない。
どんな名前でもいい。
地味な名前だって構わない。
どうせ新しく始めるなら、新しい名前で生まれ変わりたい。
もう後ろなんか気にしないように。
何もかも振り切って、新しくスタート出来るように───…。
「───…そうか。
じゃあ、そうだな……
見た目が愛らしい感じがするから、“愛”って字を付けようか。
でもそれだけじゃ寂しいから───……。」
──────…
──────…
─────…パチンッ!
店長は考えがまとまったのか、回していたペンをピタリと止めてパチンと指を鳴らした。
「────よし!
────“愛美”にしよう。
“愛らしさ”と“美しさ”が周りから好かれるように願いを込めて。」
「───…まな…み…?」
「───…そう。
今日から君はこのHeavenのキャスト、“愛美”だ。」
「───…“愛美”…」
そう名付けられた日は、ただ気恥ずかしくてくすぐったくて。
ようやく弱い自分から脱却出来たみたいで嬉しかったのを覚えてる。
初めて“彩”を捨てた日。
───…それは
あたしが“愛美”に生まれ変わった日。



