───…その日から。
あたしはその日記に、毎日想いを綴っていた。
───────────
“7月3日
今日もまたいじめられた。
でももう少し頑張ったら夏休み。
それまで頑張りたいと思う。”
“7月8日
今日はいい天気。
ちょっとだけ空を見上げた。”
“7月10日
元気付けるために、ご飯張り切って好きなもの作った。
……野菜少ない(笑)”
“7月19日
TVから歌が流れてた。
朝岡さんを思い出してしまった。”
“7月20日
朝岡さんは元気かな。
あたしは元気じゃないけど、あの人が少しでも笑っていてくれたらいいなと思う。”
“7月21日
音楽番組を見たり、歌を聞いたりすると、どうしても朝岡さんを思い出しちゃう。”
“7月23日
朝岡さんは今日も歌ってる?
その歌声で、誰かを救ったり、励ましたりしてるのかな。
あたしも、もう一回朝岡さんの歌聞きたい。”
───────────
───…そこでは、何を書いても許された。
書いてる間、あたしはあたしらしくいれた。
気持ちを書いたら少し楽になった。
明日は何書こうかな、
何書いてるのかな、
……なんて、“明日”を少しだけ考えられた。
“日記”にしか居場所は見つけられなかったけど。
きっと他人からしたら、
“寂しい人間”って思われちゃうかな?
けれど、あたしには唯一の居場所だった。
───“鍵付き”だけど。
今日もまた太陽は沈み、夜がやって来る。
「……頑張ろ~……っと」
────カチャ。
パタン────…
……あたしはあれからずっと働いていた。
コンビニ、ウェイトレス、歯医者。
暇を見つけては、レンタルビデオ屋にも行っていた。
掛け持ちは大変だったけど……。
一人で部屋に閉じ込もって、泣いて朝を待つよりは、働いてる方がよっぽど良かった。
こっちの方が、よけいな事考えなくていい。
悲しい事も思い出したりしなくていいから。
こうしていれば、いつか───……
いつかきっと、朝岡さんの事も忘れられる。



