「……そういや彩さ?」
「うん?」
「───作詞って興味あったりする?」
「────へ……?」
……作……詞?
唐突に言われた言葉に驚いて、口をポカンと開けたまま。
「……誰が?」
「いや、だから今彩以外の誰に喋ってるんさ。」
「……だ、だって……」
───…だって。
作詞なんて、今まで生きてきた中でやったことない。
ましてや、音楽なんて全然分からない。
「───前に詩書くの好きやって言ってたやん♪」
「え、いや好きは好きだけど、これとはまた別で───……」
「───スカウト。」
「……は……?」
───ちょうど赤信号で車は停止し、朝岡さんは真剣な顔であたしを見つめて来た。
「───俺に彩をスカウトさせて?
俺はただ軽い気持ちで言ってるんじゃなくて、彩の才能とか全部見越して言ってる。
彩には──…
そうやな、秘められた可能性みたいなんを感じる。
磨けば光る、原石みたいな。」
「……で、でも……!!!!
才能とか本当ないし……!!!!
朝岡さんの作った曲がめちゃくちゃになるんじゃ──……」
……それは申し訳ないけど心底思う。
詩を書くのは好きだけど、それを音楽に乗せるなんて未経験だ。
「───“始まり”なんてみんなそんなもんやよ。
最初は誰かって何も出来へんもんや。
いきなり何もかもが出来る人間なんか、おらんやろ?」
「…………」
「俺かって、最初作曲やり始めた頃はもうボロボロで……
お世辞にも“曲”なんか満足に言われへんかったんやから。」
「……朝岡さんが?」
「せやで?
……でも、そっからは死にもの狂いでやりだしたよ。
音楽が好きやったし、自分の可能性っていうか……
何かそういうのが自分にもあるって、信じてみたかったから。」
「…………」
「───だから、さ?
俺に彩を“作詞家”としてスカウトさせてよ。
俺が作った曲に、彩が言葉を綴って欲しい。
それを俺が歌いたい。」
「…………」
──…朝岡さんは。
何の迷いもなく、真剣そのものの表情であたしにそう言った。



