部屋中がコーヒーのいい香りでいっぱいになってボーッとしていると
「───彩、コーヒー飲める?」
「……え、わっ…ごめん、ありがとう……」
ふわふわと湯気が上がるマグカップを手渡されて受け取ると
「……ミルクティーは残念ながらないねん。
ごめんな、次来るまでに用意しとくな。」
「………うん♪お願いします♪」
あたしがブラック飲めないって分かってたんだろうな。
だって手渡されたコーヒーにミルクが大量に入ってるんだもん。
……きっとこれも、朝岡さんの優しさなんだろうな。
「───あまっ!
朝岡さん、これ砂糖入れすぎだよ~…」
「……ごめん、ぶっちゃけ俺も入れすぎかなぁとは予測してた♪」
「……もー…!
いくら何でもここまでお子ちゃまじゃないもん。」
「……ごめんごめん、立派なレディに失礼な仕打ちでした。」
「……そういうのが子供扱いって言うの~!!!!」
──…再び寄り添いながら二人で笑い合った。
当たり前にブラックで飲める朝岡さんにキュンキュンしたり、
いつになく、真剣に楽譜を埋める朝岡さんにドキッとしたり、
時々、歌を口ずさむ朝岡さんにジッと耳を澄ませたり───…
朝岡さんを知るたびに、
やっぱりあたしはどんどん惹かれていった。
今まで、“知りたいけど知ってはいけない”っていう、自分の中で変な掟みたいなのがなくなったからだと思う。
心の壁を取っ払ってなくした瞬間、朝岡さんはすごい勢いで心の中に入ってきた。
───強い存在感が、心の中で光を放つかのように。
心の底から愛しいと、
涙が零れそうなくらい強い感情を植え付けてくれたのも本当。
出逢ってくれてありがとう、なんてベタな事も思えたよ。
「……彩?起きてる?」
「うん、起きてるよ。」
───…午前4時。
作曲を続ける朝岡さんの背中をうとうとしながら見つめていると
「───…4時か……。
そろそろ寝ようかな……」
朝岡さんは欠伸をしながらあたしの頭を撫でた。
………パチッ。
───ね、寝る?
寝るって一緒に……?
「……え……」
───そう考えたら、眠気がぶっ飛んだ。



