「冬羽、」
「ごめんね。さっきは急に」
ベッドのそばに近寄ると冬羽は眉を下げて俺に謝った。
「そ、んなこと気にすんなよ。今暁さんが先生と話しててる。」
「そっか。」
「あー、うん。もうすぐ戻ってくると思うけど。」
定かではないが気まずくなって適当なことを言ってみる。
「ねぇ…日生君は何で海に来てたの?」
唐突な質問に驚きつつ表情は悟らせまいと顔を背けた。
「だから、散歩だって。」
「嘘。それ嘘だよね?」
凛とした声で言い切った冬羽に、一体どこまで思い出したのかとか、だとしたらどんな言葉をかけてやればいいのかだとか、いろんな思いが一気に頭の中を駆け巡った。
「嘘って…なんでそんなこと。」
結局質問に質問で返すのは俺の方で。
「日生君、ううん。陽翔君のことならなんでも分かるよ。」
俺を真っ直ぐ見つめる冬羽の目から涙がこぼれた。
「…なん、で」
あまりにも突然の事で思うように言葉が出ない。
だって冬羽はあの日から俺のことを下の名前で呼ばなくなっていたのに。
「思い出したんだ。陽翔君とのこと全部。」
さっき暁さんが口にしていたことがもう現実になった。
そのことに嬉しいというよりも、動揺が先に来てしまう。
「ごめんね、ごめん。ずっと、あなたのこを忘れていて。」
これ以上涙が溢れないように自分で涙を拭う冬羽を俺はただ見つめることしかできない。
触れようとして伸ばしかけた手を引っ込める。
こんなにも俺たちの距離はもう遠いのだと思い知らされるかのように。
タイミングが良いのか悪いのか。病室の扉がノックされた。
扉の外から「入るよ。」と穏やかな声が聞こえて俺たちが返事をするより先に暁さんが入ってきた。
「えーと、さすがにこれは俺でもよく分からないんだけど…」
俺と冬羽を交互に見て複雑そうに微笑む。
「ごめ、暁さん」
「どうした?冬羽大丈夫、泣かないで。」
すぐに側に駆け寄って背中をさするその姿に
なんだか見せつけられているような気がしてすぐに目線を逸らした。
「違うの。私」
「待って、ちょっと待って。まずは落ち着こう?ゆっくりでいいから。」
冬羽が言おうとした続きを落ち着いた声で制してゆっくりと俺の方を振り返った。
「陽翔この後少し話せるか?」
断る術もなく俺はただ頷いた。
暁さんに促されて連れられてきた病院内のカフェは俺たちと店員さんしかおらずがらんとしている。
「冬羽思い出したって?」
何か話さなければと思っていると俺より早く暁さんから問いかけられた。
「そう、ですね。」
「そっか、そっかぁ。やっぱりなんかそんな気がしてた。」
まいったなぁなんて切なそうに笑うその姿に胸が痛んだ。
「でもさ、陽翔」
改まって名前を呼ばれると何だろうと思う俺を暁さんはじっと見つめた後こう言った。
「冬羽が俺のことを、嫌だって、もういい、って言うまで別れるつもりもお前に返すつもりもないから。」
分かっているはずなのに胸に何かが重くのしかかったようなそんな気分だ。
「っ、分かってますよ。それに俺はもう冬羽とは何もありませんから。」
俺のそんな精一杯の強がりに暁さんは目を逸さなかった。
「それは本当に?」
「本当です。俺はあいつが幸せなら何でもいいんですよ。あいつの幸せの上で俺は成り立ってるようなもんなんです。」
「そっか。分かった。でも俺も陽翔と同じ気持ちだってこと覚えておいてほしい。冬羽が幸せじゃなきゃ俺だってそう感じないってことを。」
そう言って暁さんはコーヒーを少し残したまま俺の元を去って行ってしまった。
かっこいい人だ。と思った。
強くて優しいあの人は誰かを守れる力がきっとあるんだろう。
だから冬羽だって惹かれたんだ。
今の俺には冬羽を泣かせることしかできない。
たとえ俺のことを思い出したとしても、一度離したこの手はもう繋がないと決めたんだ。
暁さんがさっきまで座っていた目の前の席を見つめてこれで良かったんだと自分に言い聞かせるしかなかった。
ふと窓の外を見ると予報外れの雨が降り出していた。
「ごめんね。さっきは急に」
ベッドのそばに近寄ると冬羽は眉を下げて俺に謝った。
「そ、んなこと気にすんなよ。今暁さんが先生と話しててる。」
「そっか。」
「あー、うん。もうすぐ戻ってくると思うけど。」
定かではないが気まずくなって適当なことを言ってみる。
「ねぇ…日生君は何で海に来てたの?」
唐突な質問に驚きつつ表情は悟らせまいと顔を背けた。
「だから、散歩だって。」
「嘘。それ嘘だよね?」
凛とした声で言い切った冬羽に、一体どこまで思い出したのかとか、だとしたらどんな言葉をかけてやればいいのかだとか、いろんな思いが一気に頭の中を駆け巡った。
「嘘って…なんでそんなこと。」
結局質問に質問で返すのは俺の方で。
「日生君、ううん。陽翔君のことならなんでも分かるよ。」
俺を真っ直ぐ見つめる冬羽の目から涙がこぼれた。
「…なん、で」
あまりにも突然の事で思うように言葉が出ない。
だって冬羽はあの日から俺のことを下の名前で呼ばなくなっていたのに。
「思い出したんだ。陽翔君とのこと全部。」
さっき暁さんが口にしていたことがもう現実になった。
そのことに嬉しいというよりも、動揺が先に来てしまう。
「ごめんね、ごめん。ずっと、あなたのこを忘れていて。」
これ以上涙が溢れないように自分で涙を拭う冬羽を俺はただ見つめることしかできない。
触れようとして伸ばしかけた手を引っ込める。
こんなにも俺たちの距離はもう遠いのだと思い知らされるかのように。
タイミングが良いのか悪いのか。病室の扉がノックされた。
扉の外から「入るよ。」と穏やかな声が聞こえて俺たちが返事をするより先に暁さんが入ってきた。
「えーと、さすがにこれは俺でもよく分からないんだけど…」
俺と冬羽を交互に見て複雑そうに微笑む。
「ごめ、暁さん」
「どうした?冬羽大丈夫、泣かないで。」
すぐに側に駆け寄って背中をさするその姿に
なんだか見せつけられているような気がしてすぐに目線を逸らした。
「違うの。私」
「待って、ちょっと待って。まずは落ち着こう?ゆっくりでいいから。」
冬羽が言おうとした続きを落ち着いた声で制してゆっくりと俺の方を振り返った。
「陽翔この後少し話せるか?」
断る術もなく俺はただ頷いた。
暁さんに促されて連れられてきた病院内のカフェは俺たちと店員さんしかおらずがらんとしている。
「冬羽思い出したって?」
何か話さなければと思っていると俺より早く暁さんから問いかけられた。
「そう、ですね。」
「そっか、そっかぁ。やっぱりなんかそんな気がしてた。」
まいったなぁなんて切なそうに笑うその姿に胸が痛んだ。
「でもさ、陽翔」
改まって名前を呼ばれると何だろうと思う俺を暁さんはじっと見つめた後こう言った。
「冬羽が俺のことを、嫌だって、もういい、って言うまで別れるつもりもお前に返すつもりもないから。」
分かっているはずなのに胸に何かが重くのしかかったようなそんな気分だ。
「っ、分かってますよ。それに俺はもう冬羽とは何もありませんから。」
俺のそんな精一杯の強がりに暁さんは目を逸さなかった。
「それは本当に?」
「本当です。俺はあいつが幸せなら何でもいいんですよ。あいつの幸せの上で俺は成り立ってるようなもんなんです。」
「そっか。分かった。でも俺も陽翔と同じ気持ちだってこと覚えておいてほしい。冬羽が幸せじゃなきゃ俺だってそう感じないってことを。」
そう言って暁さんはコーヒーを少し残したまま俺の元を去って行ってしまった。
かっこいい人だ。と思った。
強くて優しいあの人は誰かを守れる力がきっとあるんだろう。
だから冬羽だって惹かれたんだ。
今の俺には冬羽を泣かせることしかできない。
たとえ俺のことを思い出したとしても、一度離したこの手はもう繋がないと決めたんだ。
暁さんがさっきまで座っていた目の前の席を見つめてこれで良かったんだと自分に言い聞かせるしかなかった。
ふと窓の外を見ると予報外れの雨が降り出していた。
