ー忘れて、もう私のことは忘れていいんだよ。
あなたのせいじゃないの。
誰のせいでもないから。
優しいあなたがこれ以上私を想って泣かないように。
神様、どうかお願いします。
「はぁっ、夢か」
また今日も同じ夢で目を覚ます。少し汗ばんだ肌が冷えて薄寒さを感じる。
いつからだったか繰り返しこの同じ夢を見るようになった。
真っ白い光の中で自分の声だけが響いているだけで、夢の中の私はどこに向かって祈っているのか未だにわからないままだ。
「冬羽(とわ)、起きてる?」
ベッドの中で薄く瞼を開けていると部屋の扉の外からノックとともに穏やかな声が聞こえた。
「うん。起きてるよ。」
私はそう答えながらベッドから出てドアノブに手をかけた。
「おはよう。よく眠れた?」
部屋を出れば優しい顔で微笑む私の恋人"蓮見暁"(はすみあき)がいた。
曖昧に微笑む私に少し眉を下げた彼は歩きながら朝ごはんの話をする。
「ごめんね。今日こそは私が作ろうと思ってたんだけど。」
朝が弱い私に代わっていつも彼が準備してくれている。
休みの日くらいは、と昨日から考えていたのに今日も先を越されてしまい申し訳なさでいっぱいになった。
「そうなの?聞けばよかったね。」
どうやら彼は自分が悪いと思っているみたいで眉毛を少しだけ下げていた。
「私も言えばよかったよね。ごめん。」
「全然。ほら早く顔洗っておいで。冷めちゃうよ。」
そんなことを言いながら私の髪の毛に手を伸ばして
「あ、待って。前髪寝ぐせ付いてる。」
微笑みながら私の前髪を彼の白く細い指が掬った。
くすぐったくて目を閉じれば猫みたいだなんて言う。
まぁ実際美味しそうな匂いにつられて簡単にリビングに向かってしまうあたり間違いではないかもしれないなと思った。
朝の支度を簡単に済ませて、リビングに戻ると私はすでに用意されていたフレンチトーストを口に運んだ。
甘い匂いがしていかにも美味しそうだなと思う。
私とは反対に、目の前でコーヒーを飲む彼に聞く。
「あれ、食べないの?」
「俺はもう食べたから大丈夫。」
時計を見るともう10時を過ぎていた。
「早く起きようって思ってたんだけど。また、寝坊した…」
「はは、いいんだよ。昨日遅くまで仕事してたでしょ?」
「知ってたの?」
「うん。リビングの電気ついてるの見えたからね。」
見られていたことに全く気が付かなかった。
「だから休みの日くらい寝坊しても良いんじゃない?」
彼からの言葉はいつも肯定なのだ。
安心していいはずなのに私はいつも不安を先に探してしまう。
「ごめ…」
「ん?なんて?」
"ごめんね"と言いかけた言葉を悪戯っ子のような笑顔で遮られ私は思い出したかのように言い直す。
「ありがとう。」
謝り癖のある私に彼はいつだったか随分前に"ごめん"よりも"ありがとう"を言うこと、と言っていた。
「はい。どういたしまして。」
「あ、そうだ。私今日ちょっと出掛けてくるね。」
もうそろそろ食べ終わるというところで私は彼にそう伝えた。
「そうなの?どこに?」
不思議そうに聞くその表情を私は上手く見ることができない。
「ちょっと、ね。」
「…んー」
伝えてもいいのだけどひとりで行きたい所があった。
私が言葉を濁すと彼は渋い返事をした。
「何か変なこと考えてない?」
大丈夫?というニュアンスを含んだ瞳が私の目の前で揺れている。
その不安を消し去るようにいつもよりも少し明るい声を出して何もないよとだけ伝えた。
「そっか、わかった。」
こういう時余計な詮索をしないのが彼の良いところだと私は思う。
「洗い物したら行ってくるね。」
食べ終えた食器をキッチンへと運びながらひと足先にリビングのソファでくつろいでいる彼にそう告げた。
「わかった。帰りは何時くらいになりそう?」
「帰りは特に決めてないけど、早いほうがいい?」
シンクの中の泡だらけの手からリビングに視線を移すとそこにいたはずの姿はいつの間にかこちらにやってきていて私を抱き締めた。
「どうかした?」
後ろから抱き締められているので手は泡だらけのまま、シンクの水道も流れっぱなしだ。
「ううん。なんでもない。」
「…そう?夜ご飯までには帰ってくるようにするね。」
ひとつ言いかけて考えた。
彼はきっといつもと少し違う私の様子に気付いている。
こんな言葉気休めにもならないのだろう。
それなのに
「分かった。待ってるよ。」
こんなふうに優しい言葉をかけられるのはきっと彼が優しくて強い人だからなのだろう。
私から体を離すとまた元居た場所へと戻っていく背中が見えた。
その姿に確かに愛おしさを感じるのになぜだか私はずっと彼ではない他の誰かの影を探している。
あなたのせいじゃないの。
誰のせいでもないから。
優しいあなたがこれ以上私を想って泣かないように。
神様、どうかお願いします。
「はぁっ、夢か」
また今日も同じ夢で目を覚ます。少し汗ばんだ肌が冷えて薄寒さを感じる。
いつからだったか繰り返しこの同じ夢を見るようになった。
真っ白い光の中で自分の声だけが響いているだけで、夢の中の私はどこに向かって祈っているのか未だにわからないままだ。
「冬羽(とわ)、起きてる?」
ベッドの中で薄く瞼を開けていると部屋の扉の外からノックとともに穏やかな声が聞こえた。
「うん。起きてるよ。」
私はそう答えながらベッドから出てドアノブに手をかけた。
「おはよう。よく眠れた?」
部屋を出れば優しい顔で微笑む私の恋人"蓮見暁"(はすみあき)がいた。
曖昧に微笑む私に少し眉を下げた彼は歩きながら朝ごはんの話をする。
「ごめんね。今日こそは私が作ろうと思ってたんだけど。」
朝が弱い私に代わっていつも彼が準備してくれている。
休みの日くらいは、と昨日から考えていたのに今日も先を越されてしまい申し訳なさでいっぱいになった。
「そうなの?聞けばよかったね。」
どうやら彼は自分が悪いと思っているみたいで眉毛を少しだけ下げていた。
「私も言えばよかったよね。ごめん。」
「全然。ほら早く顔洗っておいで。冷めちゃうよ。」
そんなことを言いながら私の髪の毛に手を伸ばして
「あ、待って。前髪寝ぐせ付いてる。」
微笑みながら私の前髪を彼の白く細い指が掬った。
くすぐったくて目を閉じれば猫みたいだなんて言う。
まぁ実際美味しそうな匂いにつられて簡単にリビングに向かってしまうあたり間違いではないかもしれないなと思った。
朝の支度を簡単に済ませて、リビングに戻ると私はすでに用意されていたフレンチトーストを口に運んだ。
甘い匂いがしていかにも美味しそうだなと思う。
私とは反対に、目の前でコーヒーを飲む彼に聞く。
「あれ、食べないの?」
「俺はもう食べたから大丈夫。」
時計を見るともう10時を過ぎていた。
「早く起きようって思ってたんだけど。また、寝坊した…」
「はは、いいんだよ。昨日遅くまで仕事してたでしょ?」
「知ってたの?」
「うん。リビングの電気ついてるの見えたからね。」
見られていたことに全く気が付かなかった。
「だから休みの日くらい寝坊しても良いんじゃない?」
彼からの言葉はいつも肯定なのだ。
安心していいはずなのに私はいつも不安を先に探してしまう。
「ごめ…」
「ん?なんて?」
"ごめんね"と言いかけた言葉を悪戯っ子のような笑顔で遮られ私は思い出したかのように言い直す。
「ありがとう。」
謝り癖のある私に彼はいつだったか随分前に"ごめん"よりも"ありがとう"を言うこと、と言っていた。
「はい。どういたしまして。」
「あ、そうだ。私今日ちょっと出掛けてくるね。」
もうそろそろ食べ終わるというところで私は彼にそう伝えた。
「そうなの?どこに?」
不思議そうに聞くその表情を私は上手く見ることができない。
「ちょっと、ね。」
「…んー」
伝えてもいいのだけどひとりで行きたい所があった。
私が言葉を濁すと彼は渋い返事をした。
「何か変なこと考えてない?」
大丈夫?というニュアンスを含んだ瞳が私の目の前で揺れている。
その不安を消し去るようにいつもよりも少し明るい声を出して何もないよとだけ伝えた。
「そっか、わかった。」
こういう時余計な詮索をしないのが彼の良いところだと私は思う。
「洗い物したら行ってくるね。」
食べ終えた食器をキッチンへと運びながらひと足先にリビングのソファでくつろいでいる彼にそう告げた。
「わかった。帰りは何時くらいになりそう?」
「帰りは特に決めてないけど、早いほうがいい?」
シンクの中の泡だらけの手からリビングに視線を移すとそこにいたはずの姿はいつの間にかこちらにやってきていて私を抱き締めた。
「どうかした?」
後ろから抱き締められているので手は泡だらけのまま、シンクの水道も流れっぱなしだ。
「ううん。なんでもない。」
「…そう?夜ご飯までには帰ってくるようにするね。」
ひとつ言いかけて考えた。
彼はきっといつもと少し違う私の様子に気付いている。
こんな言葉気休めにもならないのだろう。
それなのに
「分かった。待ってるよ。」
こんなふうに優しい言葉をかけられるのはきっと彼が優しくて強い人だからなのだろう。
私から体を離すとまた元居た場所へと戻っていく背中が見えた。
その姿に確かに愛おしさを感じるのになぜだか私はずっと彼ではない他の誰かの影を探している。
