猫をかぶる


 その日の夜。
 仕事から帰ってきた母親が開口一番に訊いてきた。
「和樹くんとどうだった?」
 テレビを見ていた音々はむっと眉を寄せる。
「教えるわけないでしょ。お母さんのせいで大変だったんだから」
「そう言うわりにはすっきりしたんじゃない? 猫耳もへこたれてないし」
「うっさいっ」
 音々は近くにあったクッションを掴んだが、母親が紙袋を前に突き出したことによって動きを止めざるを得なかった。
「そ、それって」
「ケーキ買ってきました~。無事に食べたいのなら、矛を収めい」
 まるで人質を取るかのような言動に音々は唇を噛む。しかしながら良い作戦をはっと思いつけば、笑みを浮かべた。
「そっちこそ、いいの? お母さんの態度しだいで和樹とどうだったか教えてあげるけど?」
「えっ」
 そう告げられた母親は思わず紙袋を見た。そこには二人の好物がそれぞれ入っていて、音々が言わんとすることは明らかだった。
「ちょっとだけなら……」
 腰の引けた返答に、音々の目が鋭くなる。
「は、半分?」
 うんともすんとも言わない。
「もしかして全部っ?」
 音々は満足げに頷く。すると、母親の嘆き声が響いた。
「そんなのあんまりだぁ~っ!」
 そうして夕飯後、母親から献上されたケーキを美味しそうに頬張れば、音々の尻尾が左右にゆらゆらと動いたのだった。

   おしまい