猫をかぶる


 河川敷の草原に立っていた。雲一つない青空から太陽が覗き込んでいて、吹いてきた風に草むらがなびいている。電車が遠くで走っているのか、踏切の音が僅かに聞こえた。懐かしい香りがしていた。
 ここはどこだろうと思う。なんとなく見覚えのある景色なのに、地名が出てこなかった。それをぼんやり考えていると、ふとランドセルを背負った男の子と女の子が横を通り抜けていく。手を繋いだその後ろ姿が、なぜか目に留まった。
「わあ、いっぱい咲いてるよ。ここにしよう」
 男の子がそう言うと、二人は立ち止まってその場にしゃがみ込んだ。何をするのかと眺めていたら、摘み取った白い花の茎を結んで冠を作っていた。手先が器用なのか男の子のほうが先にそれを編み終えて、もたついている女の子のほうを手伝ってあげようとする。
「わかんないよお。もうやだあ」
「だいじょうぶだよ、いっしょに作ろう?」
 弱音を口にする女の子をなだめ、男の子はゆっくりと手順を教える。「こう?」「こうだよ」「こうかな?」「そう!」。そんなふうに手を貸していると、「できたあっ」と女の子も花冠を完成させた。
 できあがったものを、男の子は女の子に、女の子は男の子に被せる。二人のよろこび合う声が聴こえる。すると男の子が花をもう一輪摘み、指輪を作って女の子の薬指にはめた。
「ぼくたち、大人になったらけっこんしようね」
 そうやって、男の子のほころんだ横顔を見て。
 音々はここが記憶の中であることにようやく気がついた。