君のもとへ走る


「待って!」

少ししてまた声を掛けた。今度はちゃんと声になった。君が振り向く。

「…! え、ちょっ、どうしたの?」

君は驚いた顔でこっちに駆け寄ってきた。優しい。やっぱり好きだ。

「言いたいことあって……でもどこにいるかわかんなかったから走って探した」

荒い息のままそう話す。君は慌てて背をさすってくれる。おかげで心臓の痛みは一瞬で飛んだ。

「言いたいことって何?」

君は優しいから、必死で走ってきた人の話を聞かずに放置することなんてできないだろう。そこに漬け込むずるさを許してほしい。


「……好きだよ、君のこと。かなり前から好きなんだ」

誤魔化さず真っ向から勝負する。もう友達には戻れないのかもしれない。それでも自分以外の誰かと近くにいる君を見ていられる自信はないから、ここで勝負するしか道はない。

君はさっきよりもっと驚いた顔をした。その表情は初めて見るような気がする。そして、それから、表情を崩して思い切り笑った。

「そのために、走ってきてくれたんだ? なんだろ、すごい嬉しい」

なんで笑ってるのかはよく分からない。ただ一つ分かるのは、その笑顔がとても好きだということだけ。


「あのね、怒んないでね? 実は、呼び出されたっていうのは嘘。君の反応を見たくて騙したの」

にやっと笑った顔はいつもの優しい君とは違って見えた。それでも嫌いではなかった。

「え、なん……えぇ」

動揺してそんな声を出してしまう。力が抜けてその場に座り込むと、君は背中をさすりながらごめんと謝った。きっと許してもらえることを分かってのことなのだろう。君の方がよっぽどずるかった。


風が吹いてきた。汗が乾いていく。想いを告げたからだろうか。君に転がされたというのに妙に心地いい。

返事はどうなのだろう。焦って聞く必要はない。追いかけなくても君はもういなくならないだろうから。背中をさする君の手をぎゅっと掴む。追いかけることよりもこの手を離さないことを大事にしようと決意した。