Music of Frontier

病院に着くと、俺は真っ直ぐエインリー先生のところに向かった。

「やぁ、ルクシー君。こんにちは」

「こんにちは、エインリー先生」

エインリー先生は、ほわっ、と人の良い笑顔で迎えてくれた。

最近では、すっかり顔馴染みである。

「ルトリア、様子はどうですか?」

「んー…。あんまり良くはないねぇ。全然食べてくれないし…。夜も眠れてないみたい」

「…そうですか」

ルトリアの具合は、良くなっていないらしい。

良くないと言うか…むしろ悪くなってさえいるのかもしれない。

そんな状況なのに、手紙一つでどうにかなるかも…なんて考えていた自分の愚かしさよ。

…無駄かもしれないけど、でも。

何かのきっかけになってくれれば、それで良い。

「…あの、前言ってた手紙…書いてきたんですけど、これで良いでしょうか」

「あ、早速書いてきてくれたんだね。仕事が早いね、ルクシー君は…。じゃ、見せてもらうね」

エインリー先生は、俺が差し出した手紙…メモ用紙だが…を受け取り。

そこに書かれている、たった一行の文章に目を通した。

「…ふむ」

「…どうですか?」

これは駄目だね、と言われたら…書き直すつもりである。

候補は他にもあるけど、でもやっぱり…一番伝えたいことは、それだから。

エインリー先生はどんな反応をするか、と思ったが。

「…ふふ。成程ね」

…笑われた。

「…今、何で笑ったんですか?」

小学生かお前。とでも思ったのだろうか。

仕方ないじゃないか。直に会えないんだから手紙でも書くしかない。

「いや、ごめんね。別に馬鹿にしてる訳じゃないんだよ。ただ…」

「…ただ?」

「このたった一行に、君がどれだけルトリア君を大切に思ってるかが伝わってきて…。君達、本当に仲良しなんだなって思ったんだよ」

「それは…」

…今更、言うまでもないことだ。

「分かった。これを渡しておくよ」

「大丈夫なんですか?それで…」

「うん、大丈夫。読んでくれるかどうかは分からないけど、確かに渡しておくから。何なら私が彼の耳元で読み上げるよ」

「お願いします」

手紙をエインリー先生に託し、俺はホッと一息ついた。

これで何かが変わる…かは、分からない。

でも、何もしないで待っているだけより、遥かにましだ。